「うちの会社もInstagramを頑張っているのに、なぜか投稿がバラバラに見える」「フォロワーは増えても、コメントやシェアといった反応が薄い」——SNS担当者からよく聞く悩みです。とくに老舗メーカーや専門商材を扱う企業ほど、"商品を売り込みたい気持ち"と"フォロワーに嫌がられたくない気持ち"の板挟みになり、当たり障りのない投稿を繰り返してしまいがちです。
そんな中、家庭用品・調理家電の老舗である象印マホービンのInstagram運用は、企業アカウントとしての誠実さを保ちながらも、ブランドごとに世界観を作り分け、ユーザーとの接点を丁寧に設計している点で参考になる事例です。本記事では、公開されている情報をもとに、象印のSNS運用の考え方・投稿の型・エンゲージメント施策を分解し、業種を問わず応用できるポイントに落とし込みます。なお、フォロワー数やエンゲージメント率など裏付けの取れない数値は本記事には記載しません。
象印マホービンの公式Instagram運用体制をまず確認する
象印マホービンは、企業サイト内に「ソーシャルメディア公式アカウント」というページを設け、公式に運用しているSNSアカウントの一覧と運用方針を公開しています(象印マホービン公式サイト「ソーシャルメディア公式アカウント」)。同ページでは、SNSを「お客様との重要なコミュニケーションの場」と位置づけ、不特定多数に見られていることを自覚したうえで、ユーザーへの敬意を払い、誤解を招かないように配慮しながら運用する、という姿勢が明記されています。
この「運用方針を公開する」という姿勢自体が、実は重要な設計ポイントです。企業アカウントは炎上リスクと常に隣り合わせですが、あらかじめ運用方針やキャンペーン応募規約(Instagramキャンペーン応募規約)を明文化しておくことで、フォロワーとの間に「ルールに基づいた誠実な運用をしている」という信頼を築きやすくなります。応募規約には、Instagramアカウントを保有していること、対象アカウントをフォローしていること、応募アカウントを公開設定にしていること、日本国内在住であることなど、具体的な参加条件が定められており、キャンペーン設計の透明性が担保されています。
また象印は、メインの公式アカウントに加え、調理家電ブランド「STAN.」専用のInstagramアカウント(@stan._by_zojirushi)を別立てで運用しています。ブランドごとにアカウントを分けることで、それぞれのターゲット層に最適化した世界観・トンマナを保てる点が特徴です。

なぜ「らしさ」を保てているのか:ブランド単位での世界観設計
STAN.シリーズは、象印の企業ストーリーページ「ZOJIRUSHI STORIES」でも紹介されている通り(STAN.シリーズ|ZOJIRUSHI STORIES)、単品の調理家電として企画されたのではなく、「暮らしの時間そのものをデザインする」というコンセプトのもとに作られたブランドです。ネーミングにも「あなたの暮らしにスタンバイ。(STANDBY)」「スタンダードをつくり続ける。(STANDARD)」「それが象印のスタンスです。(STANCE)」という3つの意味が込められており、ブランドストーリーが一貫して言語化されています。
このように、SNS運用の前段階で「誰の、どんな暮らしに寄り添うブランドなのか」という軸が明文化されていることが、Instagram投稿の世界観がぶれない土台になっています。逆にいえば、投稿のトンマナが定まらないと悩んでいる企業の多くは、SNS運用そのものよりも前段階、つまりブランドコンセプトの言語化が不足しているケースが少なくありません。
STAN.の公式アカウントでは、商品そのものだけでなく、その商品を使ってできる生活シーン・レシピ情報が発信されており(STAN.|レシピ)、「モノ」ではなく「モノのある暮らし」を見せる編集方針が一貫しています。これは家電・生活雑貨業界のInstagram運用における王道パターンであり、単なる商品カット写真の羅列よりも保存・共有されやすい投稿形式です。
投稿の型を分解する:象印に見る3つの構成要素
公開情報から確認できる範囲で、象印グループのSNS運用に共通する投稿の型を整理すると、大きく3つの要素に分解できます。
| 構成要素 | 内容 | 狙い |
|---|---|---|
| 商品訴求 | 新商品や定番商品の機能・デザインを紹介 | 商品理解の促進、購買検討の後押し |
| 生活提案(レシピ・使い方) | 炊飯器や調理家電を使ったレシピ、暮らしのシーン提案 | 保存・シェアされやすいコンテンツで接点を増やす |
| キャンペーン・UGC企画 | フォロー&コメント形式の懸賞、ハッシュタグ投稿企画 | フォロワー増加とエンゲージメント創出 |
例えば過去には、炊飯器「炎舞炊き」に関連したハッシュタグキャンペーン(「ここがすごいぞ炎舞炊き」ハッシュタグキャンペーン)や、公式アカウントをフォローしたうえで「電気ケトルで作ってみたいドリンク」をコメントする形式の企画が実施されてきました。これらは、商品の魅力を一方的に説明するのではなく、ユーザー自身に「使うシーン」を想像・発信してもらう設計になっている点が共通しています。
エンゲージメントを生む仕組み:キャンペーンとUGC活用の考え方
Instagramにおけるユーザー生成コンテンツ(UGC)は、企業からの一方的な発信よりも購買意欲を高める効果があるとされています。UGCを活用したハッシュタグキャンペーンは、短期間で大量の投稿を集めやすい施策として広く知られており、象印もこの手法を自社商品カテゴリー(炊飯器、水筒、ケトルなど)に合わせて展開してきました。
ここで重要なのは、キャンペーン単体を打ち上げ花火的に実施するのではなく、「フォロー」「公開設定」「日本国内在住」といった応募条件をあらかじめ整備し、継続的に企画を回せる体制を整えている点です。前述の応募規約ページの存在からも分かる通り、象印は懸賞企画を一過性のイベントではなく、運用ルールに基づいた定常的な施策として位置づけていると考えられます。
企業アカウントがUGC施策を検討する際に参考になる視点は次の3つです。
- 参加ハードルを下げる:フォロー+コメント、フォロー+ハッシュタグ投稿など、応募動作をシンプルにする
- 参加条件を明文化する:公開アカウントであること、居住地条件などをあらかじめ規約化し、トラブルを避ける
- 商品の「使用シーン」を投稿させる:単なる感想ではなく、レシピ・使い方など再利用可能なコンテンツを引き出す設計にする
データで見るInstagram運用の追い風
自社でInstagram運用の予算や工数を確保する際、社内説明に使える公的データも押さえておきたいところです。以下は本記事執筆時点で確認できる公開データです。
- 総務省「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によれば、全年代におけるInstagramの利用率は52.6%であり、特に60代の利用率が大きく伸びていると報告されています(総務省 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査)。この調査は全国の13〜79歳の男女1,800人を対象に、訪問留置調査方式で実施されたものです。
- 消費者庁が公表した平成28年度委託調査事業「インターネット消費者トラブルに関する総合的な調査研究報告書」では、「友達がSNSにアップ・シェアした情報を見て商品を購入した経験がある」と回答した割合が15〜29歳で約30%、10代後半の女性では約37%に上ることが示されています(消費者庁 インターネット消費者トラブルに関する総合的な調査研究報告書)。これは、UGC・口コミ型の投稿が購買行動に直結しやすいことを裏づけるデータです。
- Meta社は2023年11月の「Meta Marketing Summit Japan 2023」において、2019年に公表した国内Instagram月間アクティブアカウント数(3,300万)から4年間で「倍以上に拡大した」と発表しています(2019年時点の数値の出典:Metaについて「Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3,300万を突破」)。最新の公式単独数値そのものは非開示のため、あくまで「拡大傾向にある」という事実として捉えるのが妥当です。
これらのデータから読み取れるのは、Instagramはもはや若年層だけのメディアではなく、シニア層を含む幅広い年代にリーチできるチャネルへと変化しているという点、そしてUGC・口コミ的な投稿が購買行動に一定の影響を与えているという点です。家庭用品・調理家電のように幅広い年代が顧客層となる業種にとって、これは追い風となるデータといえます。
象印の事例から学ぶ、明日から試せるチェックリスト
象印の運用から抽出できる考え方を、自社アカウントに落とし込むためのチェックリストに整理しました。
- 自社の運用方針・キャンペーン応募規約を、社内向けだけでなくユーザーが見られる場所に明文化しているか
- ブランド・商品ラインが複数ある場合、無理に1アカウントに詰め込まず、ターゲットごとにアカウントを分ける必要がないか検討したか
- 投稿の軸となる「誰の、どんな暮らし・仕事に寄り添うブランドか」という一文を言語化できているか
- 商品カットだけでなく、「使用シーン」「レシピ」「活用方法」など保存・共有されやすいフォーマットの投稿を用意しているか
- キャンペーンを実施する際、参加条件(フォロー、公開設定、居住地など)を事前にテキストで明示しているか
- UGCを集める企画では、ユーザーが投稿しやすいお題(具体的な質問・テーマ)を設定しているか
- 社内で「Instagram運用にどれだけの効果が見込めるか」を説明する際、総務省や消費者庁など信頼できる一次情報を根拠として用意しているか
このチェックリストは、業種や規模を問わず、企業・店舗アカウントの運用初期段階で見直すべき項目です。特に「応募規約の明文化」と「使用シーンを見せる投稿フォーマット」は、明日からでも着手できる粒度の施策です。
自社アカウントに落とし込むときの注意点
象印の事例をそのまま模倣する際に気をつけたいのは、「ブランドを分けること」自体が目的化しないようにする点です。象印がメインアカウントとSTAN.アカウントを分けられているのは、それぞれに明確なコンセプトとターゲット層の違いがあるためです。運用リソースが限られている中小企業や個人店舗が同じことをすると、どちらのアカウントも更新が滞り、かえって世界観が薄まるリスクがあります。
同様に、UGCキャンペーンについても、参加条件を整備する法務・規約面の手間を軽視すると、景品表示法上の懸賞規制(いわゆる「オープン懸賞」「クローズド懸賞」の上限額の違いなど)に抵触するリスクもあります。象印のように応募規約ページを整備したうえで実施する、という順番を守ることが重要です。
まとめ
象印マホービンのInstagram運用は、派手な小手先のテクニックではなく、①運用方針とキャンペーン規約を明文化して信頼を担保する、②ブランドごとにコンセプトを言語化し世界観を保つ、③商品そのものより「使用シーン」を見せる投稿フォーマットを軸にする、④UGCキャンペーンを継続的な仕組みとして運用する、という基本を丁寧に積み重ねている点に特徴があります。総務省や消費者庁の公開データが示す通り、Instagramの利用者層は年々広がり、口コミ・UGCが購買行動に影響を与える傾向も確認されています。自社アカウントの世界観づくりに悩んでいる担当者は、まず「誰の、どんな暮らしに寄り添うアカウントか」を一文で言語化するところから見直してみてください。
他業種・他業態のSNS運用事例をより詳しく知りたい方は、unyouの事例データベース(https://unyou.media/cases)で、業種別・目的別の運用事例を比較検討することをおすすめします。
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