「うちの会社もInstagramを頑張っているのに、なかなか反応が伸びない」「投稿ネタが尽きてきて、毎回同じような写真とキャプションの繰り返しになっている」——SNS担当者やお店のオーナーであれば、一度はこうした壁にぶつかった経験があるのではないでしょうか。特に食品・飲料業界は競合アカウントが多く、フォロワーの目も肥えているため、「何を、どう見せれば選ばれるのか」の設計が成果を大きく左右します。
そこで本記事では、日本を代表する飲料メーカーであるサントリーの公式Instagram運用を題材に、アカウント設計・投稿の型・世界観づくり・エンゲージメント施策を分解し、企業や店舗のSNS担当者が自分たちのアカウントに応用できるポイントに落とし込みます。数字を誇張することなく、公開情報と公的統計をもとに、明日から実践できるレベルまで具体化していきます。
サントリーのSNS運用を分析する意味
サントリーは酒類・飲料・食品と幅広い事業を展開する大企業であり、SNSにおいても単一アカウントですべてを発信するのではなく、事業やブランドの性質に応じてアカウントを使い分けているのが特徴です。公式サイトの「ソーシャルメディア アカウント一覧」ページ(suntory.co.jp/enjoy/socialmedia/)では、企業公式アカウントに加えて、事業・ブランドごとの複数アカウントが案内されています。
大企業の事例は「規模が違いすぎて参考にならない」と思われがちですが、実際に注目すべきは規模ではなく「設計の考え方」です。誰に・何を・どのトーンで届けるかという役割分担の発想は、フォロワー数の大小にかかわらず、中小企業や個店のアカウント運用にもそのまま応用できます。

サントリーの公式Instagramアカウント構成を整理する
まず、確認できる公開情報をもとに、サントリーが運用する主なInstagramアカウントの役割を整理してみます。
| アカウント | 主な発信内容 | 役割・ターゲットの位置づけ |
|---|---|---|
| サントリー公式(@suntory_jp) | 新商品情報、季節企画、暮らしにまつわる話題など | 一般生活者向けの総合的なブランドコミュニケーション |
| サントリー公式PR(@suntory_pr) | プレスリリース性の高い情報、企業としての取り組み | 広報・企業情報に関心の高い層への発信 |
| サントリーフラワーズ公式(@suntory_flowers_jp) | 花や園芸に関する情報、商品情報 | 園芸・ガーデニングに関心のある層への専門発信 |
(出典:サントリー公式サイト「ソーシャルメディア アカウント一覧」suntory.co.jp/enjoy/socialmedia/、および各アカウントのInstagram公開ページ)
このように、事業領域やユーザーの興味関心が異なる場合は無理に1つのアカウントに集約せず、テーマごとにアカウントを分ける設計になっています。一般消費財のブランドコミュニケーションと、園芸専門情報とでは、フォローする理由もユーザー層も異なるため、それぞれに最適化した発信ができるという利点があります。
投稿に見える「型」を分解する
公開されている投稿や関連情報から見えてくる、サントリーの投稿づくりの型をいくつか整理します。
1. 記念日・季節ネタと自社商品を掛け合わせる 「〇〇の日」といった記念日や季節の変わり目に合わせて、自社商品を絡めた投稿を行う手法が使われています。これは投稿ネタが尽きやすいという運用側の課題を解消しつつ、カレンダー的な文脈がある分、ユーザーにとっても「今の話題」として受け取りやすくなるという効果があります。
2. 暮らしのシーンに商品を溶け込ませる 新商品の告知だけでなく、家での過ごし方や季節の楽しみ方といった生活シーンの中に商品を自然に配置する投稿が見られます。商品単体を大きく見せる「広告的な画」よりも、生活の一コマとして商品が登場することで、フィード上での違和感が少なくなります。
3. ブランドの背景・つくり手のストーリーを見せる ウイスキーづくりに関する情報発信では、原料や水源、熟成といった「つくり手側のこだわり」を伝える写真表現が使われています(サントリーのウイスキーブランドのビジュアル制作事例は、制作会社こびとのくつ株式会社の実績紹介ページでも紹介されています)。単なる商品紹介ではなく、背景にあるストーリーを見せることで、ブランドへの理解や愛着を深める狙いがあると考えられます。
世界観のつくり方:ブランドごとに文脈を変える設計
サントリーのアカウント群を横断して見えてくるのは、「ブランド全体としての一貫性」と「アカウントごとの文脈の使い分け」を両立させている点です。総合的な生活提案を行う公式アカウント、専門性の高い園芸アカウント、企業の取り組みを伝えるPRアカウントというように、写真のトーンやキャプションの温度感をアカウントの目的に合わせて変えています。
これは、1つのアカウントに広報要素・商品訴求・専門情報をすべて詰め込んでしまうと、フォロワーにとって「何のアカウントなのか」が分かりにくくなり、フォロー動機がぼやけてしまうという課題への対策とも言えます。中小規模の事業者がアカウントを複数持つのは現実的でない場合も多いですが、1つのアカウントの中でも「ハイライト機能でテーマを分ける」「投稿カテゴリごとにハッシュタグや文体のルールを決める」といった形で、同じ考え方を取り入れることは可能です。
コンプライアンス・ガイドラインを軸にした投稿設計
サントリーは公式サイトに「公式アカウント ガイドライン」(suntory.co.jp/snsguide/)を公開しており、SNS運営各社の利用規約とサントリー独自の基準の遵守を明示するとともに、一定の基準に該当する投稿・コメントについては削除などの措置を取る方針を示しています。また、アルコールに関する情報については20歳以上を対象とする方針が明記されています。
これは酒類を扱う企業として当然の配慮ですが、業種を問わず参考になる点があります。それは「どこまでを許容し、どこからは削除・非表示にするか」という運用ルールを、担当者の裁量に任せず、組織としてあらかじめ言語化しておくということです。炎上リスクやコンプライアンス上の懸念は、担当者が変わるたびに判断基準がぶれることでも生まれます。自社の商材が未成年や健康に関わる場合はもちろん、そうでない業種であっても、投稿前チェックリストやコメント対応方針を文書化しておくことは、アカウントの信頼性を長期的に守るうえで有効です。
エンゲージメントを生む施策:キャンペーンとUGCの活用
サントリーは「サントリー公式instagramキャンペーン」(suntory.co.jp/enjoy/socialmedia/instagram-cp/)のように、アカウントのフォローと応募条件の達成によって参加できるキャンペーンを実施しています。フォロー+簡単なアクション(応募・投稿など)を条件にすることで、新規フォロワーの獲得と既存フォロワーの継続的な関与の両方を狙う、Instagramでは定番のエンゲージメント施策です。
キャンペーンを設計する際に注意したいのは、応募規約や景品表示法など関連する法令・各SNSのプラットフォームポリシーを踏まえた運用が前提になるという点です。大企業ほど規約整備が厳密に行われている背景には、こうした法令遵守の必要性があります。中小事業者がキャンペーンを実施する場合も、賞品の金額基準や告知文言など、事前に確認すべき事項を整理してから着手することが望ましいでしょう。
日本のSNS利用環境から見る背景
なぜ多くの企業が複数アカウント運用やキャンペーン施策にコストをかけてまでSNSに取り組むのか、その背景にある市場環境のデータも確認しておきます。
総務省「令和6年版 情報通信白書」によると、インターネット利用の目的・用途のうち「SNS(無料通話機能を含む)の利用」は全体で81.9%と最も高い割合を占めており、年代別に見ても20代で9割超、30代で約85%、60代でも7割超がSNSを利用しているというデータが示されています(出典:総務省「令和6年版 情報通信白書」)。年齢層を問わずSNSが生活インフラの一部になっていることが分かります。
Instagramについては、運営元のMeta社が2019年6月に日本国内の月間アクティブアカウント数が3,300万を突破したことを公式に発表しています(出典:Meta「Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3300万を突破」about.fb.com/ja/news/2019/06/japan_maaupdate-2/)。その後の国内利用者数について同社から明確な最新値の公表は限定的ですが、この発表時点だけでも、Instagramが企業にとって無視できない規模のユーザー接点であったことは公的に裏付けられています。
また、企業のSNS活用実態についても調査が行われています。PR TIMESと東京新聞が共同で実施した「企業のSNS運用実態と成果に関する徹底調査(2025年5月)」では、SNSマーケティングに課題を感じている企業の広報・マーケティング担当者を対象に、運用実態や成果に関する調査結果がリリースされています(出典:PR TIMES×東京新聞「企業のSNS運用実態と成果に関する徹底調査(2025年5月)」)。多くの企業がSNS運用に課題を抱えながら取り組んでいる状況は、サントリーのような大企業が体制やガイドラインを整備してまで運用に力を入れている理由とも重なります。
中小企業・店舗がサントリー事例から応用できるポイント
ここまでの分析を踏まえ、自社アカウントに落とし込める具体的なポイントを整理します。
- アカウントの役割を1行で言語化する:「誰に」「何を届けるアカウントか」を明文化し、投稿ごとにその軸からズレていないか確認する。
- 記念日・季節カレンダーを先に作る:1〜3カ月分の「関連する記念日・季節イベント」を先にリストアップし、自社商品との掛け合わせ企画を事前にストックしておく。
- 商品単体ではなく「使われているシーン」で見せる:生活・仕事・店舗での利用シーンを想像し、商品が自然に登場する構図で撮影する。
- つくり手・背景のストーリーを月1回は発信する:原材料、製造工程、開発の裏話など、商品そのもの以外の切り口を定期的に混ぜる。
- 投稿・コメント対応の基準を文書化する:削除・非表示にする基準、対象年齢の配慮が必要な商材かどうかを事前にチームで合意しておく。
- キャンペーンは規約確認を先に行う:応募条件・賞品表示・告知文言について、実施前に景品表示法やプラットフォームポリシーとの整合を確認する。
- アカウントを分けられない場合はハイライト・ハッシュタグでテーマを分ける:複数アカウント運用が難しい規模でも、機能面でテーマの整理は可能。
明日から試せるチェックリスト
すぐに着手できる項目から始めることで、運用の改善は無理なく進められます。
- 自社アカウントの「誰に・何を届けるか」を1行で書き出せるか確認する
- 直近3カ月分の記念日・季節イベントをリストアップする
- 過去10投稿を見返し、商品単体の画とシーンの中の画の比率をチェックする
- 商品の背景ストーリー(原料・つくり方・開発秘話)のネタを3つ書き出す
- コメント対応・削除基準を簡単な文書にまとめる
- 次に実施するキャンペーンの応募規約・法令面を確認するチェック項目を作る
- Instagramのハイライトやハッシュタグでテーマ整理ができていないか見直す
食品・飲料業界の他社事例もあわせてチェック
今回はサントリーの事例を取り上げましたが、食品・飲料業界には他にもさまざまな運用スタイルの企業・店舗があります。業種別の運用パターンをより幅広く比較したい方は、SNS運用事例データベース「unyou」の事例一覧ページもあわせてご覧ください。
まとめ
サントリーのInstagram運用を分析すると、派手な演出やバズを狙う特別なテクニックというよりも、「アカウントの役割を明確に分ける設計」「記念日・季節と商品を掛け合わせる投稿の型」「つくり手のストーリーを見せる世界観づくり」「ガイドラインに基づいたコンプライアンス運用」「フォロー訴求を組み込んだキャンペーン施策」という、地に足のついた運用の積み重ねであることが見えてきます。
これらはいずれも、フォロワー数や予算規模に関係なく、考え方として自社アカウントに取り入れられるものです。まずはチェックリストの中から1つでも着手し、投稿の型とルールを少しずつ言語化していくことから始めてみてください。
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