出典(本文中で明記した情報の元):
- 京都市「京都市ソーシャルメディア一覧」(city.kyoto.lg.jp)
- 京都市「Instagram『路地ぐらし(kyotoroji_official)』」ページ(city.kyoto.lg.jp)
- 公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)各ニュースリリース(令和6・7年度Instagramキャンペーン、運用業務委託公募、SNS勉強会)
- 総務省「令和6年版 情報通信白書」
- Meta(旧Facebook)公式発表(2019年6月)/Meta Marketing Summit Japan 2023
以下、記事本文です。
「うちの店舗も、うちの自治体も公式Instagramを頑張って更新しているのに、なかなか見てもらえない」「投稿の切り口がいつも同じで、ネタが尽きてきた」——SNS担当者からよく聞く悩みです。特に自治体や公共性の高い組織のアカウントは、企業のように攻めた表現や割引訴求ができない分、「何を発信すれば興味を持ってもらえるのか」が見えにくく、手探りで運用している方が多いのではないでしょうか。
そんな中、京都市が関わるInstagram運用は、行政・公共の立場でありながら地域の魅力を継続的に発信し続けている好例として参考にされることが多くあります。本記事では、公開情報をもとに京都市(京都市役所および京都市の観光行政を担う公益社団法人京都市観光協会=DMO KYOTO)のInstagram運用を分解し、「なぜ支持されやすいのか」「どんな型で投稿しているのか」「他の企業・店舗アカウントに応用できるポイントは何か」を整理していきます。数値については、公表されていないフォロワー数やエンゲージメント率を推測で載せることはせず、公的機関が発表している統計や、京都市・DMO KYOTOが自ら公開している情報のみを根拠にします。
京都市のInstagram運用は「ひとつ」ではない
まず押さえておきたいのは、「京都市の公式Instagram」と一言で言っても、実際には目的ごとに複数のアカウントが存在する点です。京都市公式サイトの「京都市ソーシャルメディア一覧」ページでは、Facebook・X(旧Twitter)・LINE・note・Instagramなど、部署単位で運用されている公式SNSアカウントが一覧化されています。
例えば、京都市はまちづくり・景観保全をテーマにした「路地ぐらし(kyotoroji_official)」というInstagramアカウントを運用しています。これは京町家の保存・再生や、細街路(路地)が持つ暮らしの魅力を発信することに特化したアカウントで、観光PRとは異なる文脈——都市計画・住宅政策の広報——として位置づけられています。
一方で、京都の観光情報発信という文脈では、京都市から公益法人としての指定を受けている京都市観光協会(DMO KYOTO)が「Visit Kyoto」を掲げ、観光客向けのInstagram運用を担っています。DMO KYOTOは令和7年度、この公式Instagramの運用業務を委託する事業者を公募しており、その提案依頼の内容からは、単に「素敵な写真を載せる」だけではない、体系立った運用設計が求められていることが分かります。具体的には、競合アカウントや関連市場のリサーチ・分析に基づいた全体戦略の提案、メイン・サブターゲットに向けた発信トピックごとの投稿比率の設計、ビジュアルディレクションや文体(トーン・ボイス)の方針、マナー啓発や観光分散を促す情報と実用的な観光情報のバランス、そして類似事業の実績値を根拠にしたKPI設定までが仕様として明示されています。
この「目的別に複数アカウントを持ち、それぞれに運用方針とKPIを明文化する」という体制そのものが、京都市のSNS運用の土台になっていると言えます。

なぜ京都市の発信は支持されやすいのか
京都市のSNS運用が機能している理由は、大きく3つに整理できます。
1. 素材となる「地域資源」が圧倒的に強い 四季の変化、歴史的建造物、伝統行事、路地や町家といった被写体そのものの魅力が高く、投稿の「絵」がすでに完成されています。これは京都という土地固有の強みですが、裏を返せば「自分たちの地域・店舗・商品の中で、写真として成立する資源は何か」を洗い出す視点は、どの業種にも転用できます。
2. 公共性を活かした「啓発」と「実用情報」の両立 DMO KYOTOの委託仕様に見られるように、京都市の観光発信は単なる集客訴求ではなく、マナー啓発や観光地の混雑分散(オーバーツーリズム対策)といった公共的なメッセージを、実用的な観光情報と組み合わせて伝えています。企業アカウントであれば売り込みに寄りがちな場面で、「役に立つ情報」「知っておくと得する情報」を前面に出すことで、フォローする心理的ハードルを下げています。
3. ガバナンスが明文化されている 京都市は「京都市ソーシャルメディアガイドライン」を策定・公開しており、複数の部署・関係団体がSNSを運用する際の基本ルールを共有しています。担当者が変わっても発信の一貫性が保たれる仕組みがあることは、長期運用において軽視できないポイントです。
投稿の「型」を分解する
京都市・DMO KYOTOの発信から読み取れる投稿設計の型は、次のように整理できます。
- テーマ設定型の企画投稿:DMO KYOTOは毎年、季節ごとにテーマを設定したInstagramキャンペーンを実施しています。例えば令和7年度は「見つけた!隠れた京都の秋」、令和6年度は「秋の色、インスタントに。」というテーマを掲げ、単発の投稿ではなく「テーマに沿った投稿を集める」形式を取っています。
- UGC(ユーザー投稿)活用型:上記キャンペーンでは、来訪者・住民自身がハッシュタグを付けて撮影・投稿した写真を募集し、公式アカウントが紹介・拡散する仕組みを採用しています。運営側が撮影・編集する手間を減らしながら、多様な視点の写真を集められる設計です。
- 周遊・分散誘導型:「もうひとつの京都」「とっておきの京都」といった、定番観光地以外のエリアを取り上げるテーマ設計により、有名スポットへの集中を避け、周辺地域への周遊を促しています。これは「知る人ぞ知る」という興味を刺激するコンテンツにもなっており、単なる名所紹介より情報価値が高くなっています。
- テーマ特化型の専門アカウント:「路地ぐらし」のように、観光とは異なる「暮らし」「まちづくり」というニッチな切り口に特化したアカウントを別立てで運用することで、観光目的以外の層(移住検討者、建築・デザイン関心層など)にもリーチしています。
世界観のつくり方——ビジュアルと言葉の統一
DMO KYOTOの委託仕様書には「ビジュアルディレクション」「文体(トーン・ボイス)」という言葉が明記されています。これは、投稿ごとに担当者の好みで写真の雰囲気やキャプションの書き方が変わってしまうと、アカウント全体の「らしさ」が崩れてしまうという課題意識の表れです。
企業・店舗アカウントが真似できるポイントとしては、以下が挙げられます。
- 使用する色味・トリミング比率・フィルターのルールを簡単でも文書化する
- キャプションの一人称(「私たち」「〇〇市」など)と敬語レベルを統一する
- 絵文字や記号の使用頻度・種類にルールを持たせる
- メインターゲットとサブターゲットを分け、投稿トピックの比率をあらかじめ決めておく(例:定番情報3割、隠れた魅力4割、マナー啓発・実用情報3割など)
京都市・DMO KYOTOのように「観光情報」と「啓発情報」を意図的に混ぜる設計は、宣伝色が強くなりがちな企業アカウントにも応用できる考え方です。
エンゲージメントを生む施策
京都市観光協会は、Instagramキャンペーンに加えて「SNS勉強会&交流会」という取り組みも行っています。これは京都で人気のInstagramアカウント運用者を招き、運用の工夫を学ぶ場を設けるというもので、単に自分たちが発信するだけでなく、地域のクリエイター・インフルエンサーとの関係構築や、運用ノウハウの共有・アップデートを図る場になっています。
自治体や公共性の高い組織にとって、こうした「発信者コミュニティとの接点づくり」は、UGCを継続的に生み出してもらうための土台になります。企業・店舗であれば、常連客やファンを集めた撮影会・座談会を開くといった形に応用できるでしょう。
データで見るSNS環境——なぜ今もInstagram強化が合理的か
京都市のような発信主体がInstagramに力を入れる背景には、日本国内のSNS利用実態も関係しています。
総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、インターネット利用者のうちSNS(無料通話機能を含む)を利用している割合は全体で81.9%に達しており、年代別では20代で90%超、30代で約85%、60代でも75%超まで利用が広がっているとされています。若年層だけでなく中高年層への到達力も高まっていることが、行政の情報発信チャネルとしてSNSが重視される根拠のひとつです。
Instagramの国内利用者規模についても、Meta(旧Facebook)は2019年6月時点で日本国内の月間アクティブアカウント数が3,300万を超えたと公式に発表しています。その後、2023年に開催された「Meta Marketing Summit Japan」では、この4年間で利用が倍以上に拡大したことが明らかにされ、国内利用規模がさらに拡大している状況が報告されました。ビジュアル中心のプラットフォームが幅広い年代に浸透していることは、写真・映像による訴求力が強い京都のような地域にとって、追い風になっていると考えられます。
以下は、ここまでの内容を踏まえた「行政・公共アカウント」と「一般企業・店舗アカウント」の運用上の違いと、参考にできるポイントの整理です。
| 観点 | 京都市・DMO KYOTOの運用 | 一般企業・店舗が参考にできる点 |
|---|---|---|
| アカウント構成 | 目的別(観光/景観・まちづくり等)に複数アカウントを分割 | 客層やブランドラインが複数ある場合、無理に1本化せず分ける選択肢を検討 |
| 投稿テーマ | 季節テーマを設定したキャンペーン形式 | 「毎回何を撮るか」を都度考えず、四半期・季節単位でテーマを先に決める |
| コンテンツ源 | UGC(利用者投稿)を積極的に募集・紹介 | 顧客・ユーザーの投稿を許諾のうえ紹介し、投稿する負担を減らす |
| メッセージ設計 | 集客情報とマナー啓発・実用情報を両立 | 販促だけでなく「役立つ情報」を一定比率で混ぜて宣伝色を薄める |
| 運用体制 | ガイドラインを文書化し、委託先にもKPI・投稿比率を明示 | 担当者の異動・退職に備え、投稿ルールとトーンを簡易マニュアル化する |
| コミュニティ形成 | 勉強会・交流会で発信者・インフルエンサーと接点を持つ | 常連客やファンとの接点をイベント等でつくり、UGCの発生源を育てる |
明日から試せる実践チェックリスト
京都市・DMO KYOTOの型を踏まえ、自社・自店舗のInstagram運用にすぐ落とし込める項目をチェックリストにまとめました。
- 直近3ヶ月分の投稿を並べて見返し、「同じ切り口の投稿」が何割を占めているか確認する
- 次の四半期のテーマ(例:季節、企画名)をひとつ決め、投稿カレンダーに反映する
- 顧客・ユーザーが撮影した写真を紹介する際のハッシュタグ・投稿ルールを1つ用意する
- キャプションの一人称・敬語レベル・絵文字ルールを1枚のメモにまとめ、担当者間で共有する
- 販促投稿と「役立つ情報」投稿の比率を決め、月間の投稿計画に反映する(例:7:3など)
- 常連客・ファン・地域の発信者と直接話す機会(小規模な集まりでも可)を四半期に1回設ける
- 投稿ルールをまとめた簡易ガイドラインを作成し、担当者が変わっても引き継げる状態にする
すべてを一度に整えるのではなく、まずは「テーマを先に決める」「顧客の投稿を紹介するルールをつくる」の2点から着手すると、無理なく運用の型化が進みます。
まとめ
京都市のInstagram運用が示しているのは、派手な仕掛けよりも「目的別のアカウント設計」「季節テーマに沿った企画」「UGCの活用」「啓発と実用情報の両立」「ガイドラインによる運用の一貫性」といった、地味だが積み重ねが効く型の存在です。京都という土地の強さに頼るだけでなく、投稿比率やトーンを事前に設計し、KPIまで含めて運用を体系化している点は、業種や規模を問わず参考になります。自社・自店舗のアカウントが伸び悩んでいるなら、まずは投稿の「型」から見直してみてはいかがでしょうか。
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