「もっと投稿を伸ばしたい」のに、何をどう変えればいいか分からない
「フォロワーはいるのに保存やコメントが増えない」「新商品を紹介しても反応が薄い」「ハイブランドの投稿はキラキラしていて自社の参考にならない気がする」——SNS担当者からよく聞く悩みです。特に美容・化粧品業界は競合アカウントの数が多く、フィードを並べただけでは埋もれてしまいます。
そこで参考になるのが、P&Gグループのスキンケアブランド「SK-II」のInstagram運用です。SK-IIは日本発祥の成分「ピテラ™」を軸に、世界中で長年ハイエンドスキンケアの地位を築いてきたブランドで、SNSにおいても単なる商品訴求にとどまらない発信を続けています。本記事では公開されている情報をもとに、SK-IIのアカウント運用のポイントを分解し、企業規模を問わず応用できる考え方に落とし込みます。なお、フォロワー数やエンゲージメント率など裏付けの取れない数値は掲載せず、事実確認できる情報のみを扱います。

SK-IIというブランドとその発信の前提
SK-IIは、清酒職人の手が驚くほどなめらかであることにヒントを得て開発されたとされる独自成分「ピテラ™」を核に展開するスキンケアブランドです。グローバルではChloe Grace Moretzさんや Simone Bilesさんら、アジア圏では綾瀬はるかさんや有村架純さん、渡辺直美さんといった著名人をアンバサダーに起用し、日本国内でも公式サイトや店頭施策と連動したコミュニケーションを行っています。
SNS上では、グローバル向けの公式アカウント(@skii)と、日本市場向けの公式アカウント(@skii.jpn)が役割分担をしているのが特徴です。グローバルアカウントはブランドの世界観やキャンペーンムービーなど「ブランドとしての物語」を中心に発信し、日本アカウントは新商品情報やキャンペーン告知、スキンケアに関する実用的な情報を織り交ぜる構成になっています。グローバルで統一されたビジュアルコンセプトを持ちながら、各国・地域のアカウントがローカライズした情報を出す——この二層構造は、複数拠点や複数ブランドラインを抱える企業アカウントにとって参考になる設計です。
なぜSK-IIの発信は支持され続けるのか
SK-IIのコミュニケーションを見ていくと、いくつかの一貫した軸が浮かび上がります。
1. 商品訴求より「物語」を先に届ける
SK-IIを語るうえで欠かせないのが、2015年から展開している「#CHANGEDESTINY(運命を、変えよう)」キャンペーンです。P&Gプレステージ合同会社のプレスリリース(PR TIMES掲載「SK-IIが5秒で運命を変える動画を公開」)によれば、12人の女性たちの実話をもとにした「CHANGE DESTINY STORIES」は、各国で合計500万回を超える視聴を獲得したと発表されています。結婚や年齢に対する社会的なプレッシャーと向き合う女性たちのリアルな物語を描いたこのシリーズは、単なる「化粧品の広告」ではなく「社会的なメッセージを持つコンテンツ」として国内外のメディアでも取り上げられました。
この「物語が先、商品はその中に自然に存在する」という構成は、Instagramのフィードにもそのまま反映されています。プロダクトショットだけを並べるのではなく、実在の女性たちのエピソードや対話をコンテンツの主役に据えることで、フォロワーが「広告」ではなく「共感できる話」として受け取れる設計になっている点が特徴です。
2. アンバサダーを「宣伝役」ではなく「語り手」にする
SK-IIは著名なアンバサダーを起用していますが、単に商品を持って微笑む写真を投稿させるのではなく、アンバサダー自身の経験やコンプレックスと向き合うストーリーを語らせる手法を一貫して採用しています。海外メディア(Campaign Asia、Moodie Davitt Reportなど)の報道でも、SK-IIがセレブリティの飾らない素肌や本音を見せる企画(Bare Skin Projectなど)を継続的に展開してきたことが伝えられています。これは「有名人を起用した宣伝」ではなく「有名人の実体験を借りたブランドの価値観の代弁」という位置づけであり、フォロワーが広告と感じにくい設計になっています。
3. フィード全体の一貫した世界観
SK-IIのフィードは、商品写真・キャンペーンビジュアル・アンバサダーのポートレートが混在していても、トーン&マナー(色味、余白の取り方、フォントの使い方)が統一されており、どの投稿を切り取ってもブランドだと認識できる状態が保たれています。unyouの美容領域の事例(THREE|美容のSNS運用事例/unyou.media)でも、ハイブランド運用における重要なポイントとして「新商品をカタログ的に並べるのではなく、抽象的なテーマの連載枠に商品を自然に組み込むコンテンツカレンダー設計」や「KPIをフォロワー増加数ではなく、フィード全体の美術的な整合性に置く」という考え方が紹介されています。SK-IIの運用にも通じる発想であり、単発の「バズ投稿」より「積み重なった世界観」を評価軸にしている点が共通しています。
投稿の型を分解する
SK-IIの発信内容を役割ごとに整理すると、次のような型に分類できます。自社の投稿カレンダーと照らし合わせてみると、抜けている型が見えてきます。
| 投稿の型 | 目的 | 具体例のイメージ |
|---|---|---|
| ブランドストーリー型 | 共感・ブランド価値観の伝達 | #CHANGEDESTINYのような実話ベースの映像・エピソード紹介 |
| アンバサダー起用型 | 権威付け・話題化 | アンバサダーが自身の言葉でブランドとの関わりを語るコンテンツ |
| 商品訴求型 | 購買意欲の喚起 | 新商品の使用感、成分(ピテラ™)の説明 |
| ハウツー・お役立ち型 | フォロー動機の醸成 | スキンケアの手順やちょっとしたコツの紹介 |
| キャンペーン告知型 | 参加・拡散の促進 | 期間限定施策やプレゼント企画の告知 |
| コミュニティ・UGC活用型 | 信頼性・双方向性の担保 | フォロワーやユーザーの声を取り上げる投稿 |
重要なのは、この6つの型が「均等な頻度」で出てくるのではなく、ブランドストーリー型を軸に据えたうえで、他の型がそれを補強する構成になっている点です。商品訴求だけのアカウントは短期的な反応は取れても、フォローし続ける理由を作りにくいという弱点があります。
エンゲージメントを生む施策の考え方
SK-IIのようなグローバルブランドがそのまま使える予算や規模を、中小企業や店舗アカウントが持つことは現実的ではありません。しかし、施策の「構造」は抽出して応用できます。
- ハッシュタグをキャンペーンの旗印にする:#CHANGEDESTINYのように、単発企画ではなく複数年にわたって使い続けられる統一ハッシュタグを持つことで、投稿が積み重なるほど検索・回遊の起点になります。
- 社会的なテーマと商品を結びつける:年齢、コンプレックス、キャリアといった「多くの人が共感できるテーマ」を切り口にすることで、商品カテゴリーに元々興味がない層にもリーチできます。
- 実名・実体験のトーンを守る:モデル的な完璧さよりも、実在の人物の言葉や表情を残すことで、フォロワーが「作られた広告」ではなく「実話」として受け取りやすくなります。
- アカウントを役割で分ける:グローバル観点のブランド発信と、ローカル市場向けの実用情報発信を無理に一つのアカウントに詰め込まず、目的別に整理する発想は、複数拠点・複数事業を持つ企業にも応用できます。
明日から試せるチェックリスト
自社アカウントに落とし込む際は、次の項目を順に確認してみてください。
- 直近10投稿のうち、商品写真だけの投稿が何割を占めているか数えてみる(8割を超えているなら、物語型・お役立ち型を意図的に増やす)
- フォロワーが「保存したくなる理由」が投稿ごとに言語化できているか確認する(お知らせの垂れ流しになっていないか)
- 自社ならではの「継続テーマ」を1つ決め、統一ハッシュタグを作る(キャンペーンのたびに変えず、育てる前提で設計する)
- お客様や従業員など「実在の人物の声」を月1回以上コンテンツに登場させる(レビュー転載、スタッフの体験談など)
- フィードのプレビュー画面を並べて、色味・余白・フォントに統一感があるか目視でチェックする
- 投稿の役割(ストーリー/告知/お役立ち/UGC)をカレンダーに書き出し、偏りがないか月次で振り返る
これらは特別な予算がなくても実行できる項目です。SK-IIの運用から学べる本質は「予算の大きさ」ではなく「一貫したテーマを軸に、商品情報と物語を組み合わせる設計思想」にあります。
美容ブランドがInstagramに注力すべき理由(データで見る)
SNS担当者の中には「そもそもなぜInstagramに力を入れるべきか」を社内で説明する必要がある方も多いはずです。以下は根拠として使える公開データです。
総務省情報通信政策研究所が公表した「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(2025年6月公表)によれば、Instagramの全年代における利用率は52.6%で、LINE(91.1%)に次いでX(43.3%)を上回る水準にあります。さらに10代から30代に限ると利用率は7割を超えており、美容・化粧品のコア顧客層である若年〜中年女性へのリーチにおいてInstagramが依然として主要チャネルであることが読み取れます。
また、Meta社は2019年6月、日本国内のInstagram月間アクティブアカウント数が同年3月時点で3,300万を突破したと公式に発表しています(Meta公式ニュースルーム「Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3300万を突破」)。その後Metaから更新された具体的な国内利用者数の公式発表は限られていますが、この2019年時点の発表だけでも、Instagramが国内で無視できない規模のプラットフォームであることが公的に裏付けられています。
こうした公的データは、社内稟議や運用方針の説明資料に引用する際の根拠として活用できます。数字の一人歩きを避けるためにも、引用する際は必ず調査元・発表主体・調査時点をセットで記載することをおすすめします。
自社アカウントに落とし込む際の注意点
SK-IIの事例を参考にする際に気をつけたいのは、「同じことをやろうとしない」ことです。グローバルブランドの物語型コンテンツや著名人起用は、多くの企業にとって同じ規模で再現するのは現実的ではありません。大切なのは、SK-IIが実践している「一貫したテーマ設計」「物語を軸にした情報設計」「フィード全体のトーンマネジメント」という構造そのものを、自社の規模やリソースに合わせて縮小再生産することです。
たとえば、地域の美容室やエステサロンであれば、著名人の代わりに「常連のお客様の変化のストーリー」を、グローバルキャンペーンの代わりに「季節ごとの継続テーマ」を軸にするだけでも、同じ考え方を応用できます。重要なのは規模ではなく、一貫性と物語性を意識した設計思想です。
まとめ
SK-IIのInstagram運用は、単発の話題作りではなく、「#CHANGEDESTINY」に代表される一貫したブランドストーリー、アンバサダーを語り手として起用する手法、そしてフィード全体で統一された世界観という3つの軸によって支えられています。これらは大企業だけの特権ではなく、投稿の型を整理し、継続テーマを1つ決め、実在の人物の声を取り入れるといった形で、規模を問わず応用可能な考え方です。総務省やMetaが公表しているデータが示す通り、Instagramは美容業界にとって依然として重要なチャネルであり続けています。自社のフィードを見直す際は、まず直近の投稿を役割ごとに分類することから始めてみてください。
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