「あのブランドみたいに伸びない」と悩んでいませんか
美容・コスメ業界でSNS担当を任されると、必ずといっていいほどぶつかる壁があります。「投稿は続けているのに保存やコメントが増えない」「世界観を統一したいけれど、何を基準に画づくりをすればいいのか分からない」「ライブ配信をやってみたいが、何を話せば見てもらえるのか自信がない」——こうした悩みは、担当者一人の力量不足ではなく、多くの場合「型」を持たずに手探りで運用しているために起こります。
一方で、老舗ブランドでありながらSNS上で存在感を保ち続けているアカウントには、共通する設計思想があります。今回はメイクアップブランド「RMK」の公式Instagram運用(@rmkofficial)を題材に、なぜこのアカウントが支持され続けているのか、投稿の型・世界観のつくり方・エンゲージメント施策の3つの切り口で分解します。数字による誇張ではなく、公開されている情報と運用の「仕組み」に注目することで、企業規模を問わず応用できるポイントを持ち帰っていただける内容を目指しました。

RMKとは?ブランドとアカウントの概要
RMKは株式会社エキップが展開する日本発のメイクアップブランドです。2022年に25周年を迎えた老舗でありながら、2021年にニューヨークで活躍していたメイクアップアーティストYUKI氏をクリエイティブディレクターに迎え、ブランドの世界観を大きくアップデートしました(出典:WWDJAPAN「『RMK』新クリエイティブディレクターにNYで活躍するYUKIを起用」)。
公式Instagramアカウント「RMK official」(@rmkofficial)は、新作コスメの発売情報やキャンペーン告知だけでなく、メイクアップテクニックやブランドの世界観を伝えるビジュアルコンテンツを継続的に発信しています。加えて、RMK専属のメイクアップアーティストたちが個人として発信するアカウント(@rmk_makeup_artist)も並走しており、「ブランド公式」と「アーティスト個人」という2つの発信軸を持っている点が特徴です。
RMKのInstagram運用を支える3つの軸
RMKの運用を分解すると、大きく3つの軸で構成されていることが見えてきます。
- 世界観の一貫性:クリエイティブディレクターの美意識に基づいたビジュアルトーン
- 人(アーティスト)を介した発信:ブランドではなく「人」が語ることによる信頼構築
- 視聴から購買までを一気通貫でつなぐライブコマース:ライブ配信内で商品説明から購入導線までを完結させる仕組み
それぞれ詳しく見ていきます。
世界観のつくり方:「リアル」と「オーセンティック」というキーワード
RMKのビジュアル戦略の核にあるのは、クリエイティブディレクターYUKI氏が掲げる「リアル」と「オーセンティック」という2つのキーワードです。完璧に作り込まれた人形のような美しさではなく、あえて生々しさやコントラストを残した表現を選び、トレンドを追いかけるのではなく本質的な価値を届ける姿勢を貫いていると語られています(出典:HIGHSNOBIETY.JP「RMK クリエイティブディレクター YUKI:『リアルネス』美学があなたを肯定する」)。
この考え方は、SNS運用における「世界観の一貫性」を考えるうえで重要な示唆を与えてくれます。多くの企業アカウントは「統一感を出す」というと、色味やフィルターを揃えることだけに意識が向きがちです。しかしRMKの事例が示すのは、表面的なトンマナ統一の前に「何を美しいとするか」という価値観そのものを定義することの重要性です。価値観が先にあり、その表現としてビジュアルのルールが後からついてくる、という順序が、投稿を重ねるほど説得力を増す世界観をつくります。
自社アカウントに落とし込む際は、次の問いから始めると具体化しやすくなります。
- 自社ブランドが「美しい」「良い」と考える基準は何か(完璧さか、リアルさか、機能性か)
- その基準を体現するモデル・スタッフ・ユーザーは誰か
- その基準に合わない投稿(トレンド追従だけの投稿など)を、勇気を持って外せているか
投稿の型を分解する
RMKの発信は、単一のフォーマットに依存せず、複数の投稿タイプが役割分担する構造になっています。目的別に整理すると以下のようになります。
| 投稿タイプ | 主な目的 | 発信主体 |
|---|---|---|
| フィード投稿(新商品ビジュアル) | ブランド世界観の提示、新作認知 | ブランド公式 |
| リール(メイクテクニック解説) | ハウツー需要への対応、保存促進 | ブランド公式/専属アーティスト |
| ライブ配信(ライブコマース) | 疑問解消とその場での購買導線 | 専属アーティスト |
| アーティスト個人アカウントの投稿 | 信頼構築、メイクの「使いこなし」提示 | 専属アーティスト個人 |
このように役割を分けて設計する発想は、そのまま中小規模の店舗・企業アカウントにも応用できます。すべての投稿で「新商品の紹介」と「使い方の解説」と「世界観の提示」を同時に詰め込もうとすると、結果的にどれも中途半端になります。RMKのように「フィードは世界観、リールはハウツー、ライブは購買導線」と役割を分担させることで、フォロワーは目的に応じて見る投稿を選べるようになり、結果としてアカウント全体の滞在時間や保存率の向上につながります。
エンゲージメントを生む仕組み:ライブコマースと専属アーティストの起用
RMKの運用でもう一つ特徴的なのが、専属メイクアップアーティストによるライブコマースです。公式サイトのライブコマース紹介ページでは、アーティストが崩れにくいベースメイクの作り方などを実演しながら紹介し、視聴者はその場で商品を購入できる仕組みが案内されています(出典:RMK公式サイト「ARTIST TIPS/LIVE COMMERCE」ページ)。また、アーティストは1対1のメイクレッスンやイベントでのメイクショーも行っており、オンラインとオフラインの両方で「人」を介した接点を継続的に提供しています。
ここで重要なのは、ライブ配信が単発のイベントではなく、「専属アーティストという顔の見える存在」が前提にあるからこそ機能しているという点です。企業アカウントがいきなりライブコマースを始めても、話し手に信頼や専門性が感じられなければ視聴者は離脱します。RMKは「ブランド公式アカウント」と「アーティスト個人アカウント」を並走させることで、フォロワーがアーティスト個人にファン化し、そのファン化した視聴者がライブ配信や新作情報に流れ込む導線を作っています。
美容・コスメに限らず、飲食店であればシェフやスタッフ、アパレルであれば店長やスタイリストなど、「顔の見える発信者」を軸に置けるかどうかが、エンゲージメント施策の再現性を左右します。
なぜ今、美容業界のSNS運用がますます重要なのか
RMKのような取り組みが意味を持つ背景には、SNSが情報収集・購買行動の主要チャネルになっているという構造変化があります。
総務省「令和7年版情報通信白書」によれば、LINEの利用率は2014年の55.1%から2024年には94.9%へと拡大し、60代の利用率も2014年の11.3%から2024年には91.1%まで伸びています。X(旧Twitter)やInstagramについても利用率は全体で半数程度に達しており、50代でも2024年時点で4割以上が利用するなど、SNSの利用は特定の若年層にとどまらず全世代に拡大していることが示されています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」)。
また、Meta社は「Meta Marketing Summit Japan 2023」(2023年11月)において、国内のInstagram利用者数が推計6,600万人以上に達していると発表しました(出典:Meta社「Meta Marketing Summit Japan 2023」公表資料)。なお、Meta社は2024年第1四半期以降、個別アプリごとの利用者数の公表を取りやめ、Facebook・Instagram・WhatsApp・Messengerを含む「ファミリーアプリ」全体の合計利用者数のみを公表する方針へ移行しています。企業がSNS運用の効果を語る際は、こうした公表方針の変化も踏まえ、確証のない推計値を断定的に扱わない姿勢が求められます。
美容領域に絞ると、株式会社鈴木ハーブ研究所が実施した調査では、20代〜40代の男性375名を対象にした調査において、20代男性の美容情報収集先としてSNS利用が5割に迫り、そのうちInstagramの回答割合は約2割に上ったと報告されています(出典:株式会社鈴木ハーブ研究所調査、PR TIMES掲載プレスリリース)。美容情報の入り口としてInstagramが一定の存在感を持っていることが、こうした調査からもうかがえます。
明日から試せる!RMKの手法を応用するチェックリスト
RMKの事例から抽出できる実践ポイントを、そのまま使えるチェックリスト形式にまとめました。
1. 世界観を定義する
- 自社が「美しい」「良い」と考える基準を、社内で言語化してドキュメント化したか
- その基準にそぐわない投稿企画を「やらない」と決められているか
- トンマナ(色味・フォント・構図)のルールは、価値観の言語化の後に決めているか
2. 投稿の役割を分担する
- フィード投稿・リール・ストーリーズ・ライブそれぞれに異なる目的を割り当てているか
- 1投稿に「新商品告知」「使い方解説」「世界観提示」を詰め込みすぎていないか
- ハウツー系のリールと、ブランドイメージ訴求のフィードを両輪で運用できているか
3. 「顔の見える発信者」を育てる
- ブランド公式アカウントとは別に、スタッフ・専門家個人が発信できる導線があるか
- その発信者に、フォロワーが継続して見たくなる専門性・親近感があるか
- 発信者個人のファンをブランドアカウントへ橋渡しする仕組み(プロフィール導線やタグ付け)があるか
4. ライブ配信・双方向施策を試す
- いきなり大規模なライブコマースではなく、小規模な質疑応答形式から始めているか
- コメントやDMへの反応をリアルタイムで拾う体制を用意しているか
- ライブの内容をアーカイブし、リール等で二次活用しているか
5. 数字より前に仕組みを見直す
- フォロワー数やいいね数だけでなく、保存率・滞在時間・購入導線のクリック率など目的に合った指標を追っているか
- 競合の「バズった投稿」の表面だけを真似していないか、投稿の裏にある役割分担まで分析できているか
自社アカウントに落とし込む際の注意点
RMKの事例を参考にする際に注意したいのは、これは長年のブランド構築と専属アーティストという体制があってこそ成立している運用だという点です。すべての企業がいきなり同じ規模のライブコマースや専属人材の起用を実現できるわけではありません。重要なのは表面的な施策の模倣ではなく、「世界観の言語化」「投稿の役割分担」「顔の見える発信者の育成」という3つの設計思想を、自社の規模やリソースに合わせて縮小・再構成することです。小規模店舗であれば、専属アーティストの代わりにオーナーやスタッフ1名が「顔」になるだけでも、同じ考え方は十分に応用できます。
まとめ
RMKのInstagram運用が支持されている背景には、偶然のバズではなく、「世界観の言語化」「投稿タイプごとの役割分担」「顔の見える発信者を軸にしたエンゲージメント設計」という一貫した設計思想がありました。SNSの利用が全世代に広がり、美容領域でも情報収集の入り口としてInstagramが一定の役割を果たしている今、企業・店舗アカウントに求められているのは、投稿数を増やすことよりも、まず自社にとっての「美しさ」や「価値観」を定義し、それを軸に発信の役割を整理することです。今回紹介したチェックリストを手がかりに、自社アカウントの現状を棚卸ししてみてください。
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