H.I.S.のInstagram運用戦略(アカウント構成・UGC施策・ハッシュタグキャンペーン)と、根拠となる公的統計・調査データを確認できたので、これらをもとに記事を執筆します。
H.I.S.のInstagram運用が「参考にしたい事例」として語られる理由
「うちも公式Instagramをやっているけれど、投稿してもリーチが伸びない」「フォロワーは増えても、それが問い合わせや来店・購入につながっている実感がない」——SNS担当者や店舗オーナーの方から、こうした悩みをよく耳にします。特に旅行・EC・通販のように「商材そのものに強い競合が多く、写真映えする在庫が限られる」業種では、何を投稿し続ければいいのか迷いやすいものです。
そこで参考になるのが、大手旅行会社H.I.S.(エイチ・アイ・エス)のInstagram運用です。H.I.S.は単一の企業アカウントで発信するのではなく、ターゲットごとにアカウントを分け、ユーザー投稿(UGC)を巻き込む仕組みを早くから作り込んできたことで知られています。本記事では、公開されているインタビュー記事や業界メディアの分析、公的統計をもとに、H.I.S.の運用の型を分解し、他業種のアカウントにも応用できるポイントに落とし込みます。なお、確証の持てないフォロワー数やエンゲージメント率などの数値は本記事では扱わず、出典が明確な情報のみを引用しています。

H.I.S.のアカウント構成:ターゲット別に「世界観」を分けている
H.I.S.のInstagram運用の特徴は、1つのアカウントに情報を詰め込むのではなく、目的別に複数アカウントを運営し、それぞれの世界観を差別化している点です。株式会社ガイアックスのソーシャルメディアラボの分析によると、H.I.S.は公式アカウント(@his_japan)に加え、女性の旅行者に向けた「タビジョ」(@tabi_jyo)、子どもとの旅行写真を集める「旅する子ども」(@tabisuru_kids)という3つのアカウントを運営しています(出典:株式会社ガイアックス ソーシャルメディアラボ)。
| アカウント | 主なターゲット | コンテンツの世界観 |
|---|---|---|
| 公式アカウント(@his_japan) | 幅広い旅行検討層 | ツアー情報・キャンペーン告知など公式情報 |
| タビジョ(@tabi_jyo) | 20〜30代の女性 | フォトジェニックな旅先写真・女子旅の提案 |
| 旅する子ども(@tabisuru_kids) | 子育て世代 | 家族旅行・子どもとの旅の思い出 |
このように分ける狙いは、フィードの「世界観」を統一しやすくするためです。1つのアカウントに幅広い年代・目的の投稿が混ざると、フォローする理由がぼやけてしまいます。逆に世界観を絞ると、フォロワーは「自分向けのアカウント」として認識しやすくなり、保存やシェアといった能動的な反応が起きやすくなります。
「#タビジョ」に学ぶ、UGC(ユーザー投稿)を巻き込む型
H.I.S.の運用でとりわけ参考になるのが、ハッシュタグ「#タビジョ」を軸にしたUGC施策です。専門メディアSMM Labのインタビュー記事によると、「タビジョ」アカウントは2016年3月に開設され、開設から約1年半で「#タビジョ」タグの付いた投稿写真は累計20万枚を超え、当時は週あたりおよそ1万枚のペースで投稿が集まる規模のコミュニティに成長したと報じられています(出典:SMM Lab「H.I.S.インタビュー」記事)。
仕組み自体はシンプルです。
- ユーザーが旅先の写真に「#タビジョ」を付けて投稿する
- 公式が投稿の中からお気に入りの1枚を選び、公式アカウントでリポストする
- リポストされたユーザーは、フォロワーの多い公式アカウント経由で新しい人に見てもらえる
- 「自分も載るかもしれない」という期待感が、次の投稿を後押しする
さらに、Yahoo!が運営するマーケティングメディア「Insight for D」の記事では、ハワイ・韓国・バリ島など特定の旅行先に合わせたキャンペーンや、タビジョ名義のツアー商品も展開されていたことが紹介されています(出典:Insight for D「なぜH.I.S.はInstagram運用で売り上げに貢献できたのか?」)。ハッシュタグを「募集する側」と「投稿する側」の両方にメリットがある設計にしている点が、継続的な投稿を生むポイントです。
投稿内容・世界観づくりで参考にできるポイント
H.I.S.の各アカウントに共通するのは、「企業目線の宣伝」よりも「旅行者目線の体験」を前面に出している点です。具体的には次のような投稿設計が読み取れます。
- ツアーやキャンペーンの告知は最小限にとどめ、旅先の情景・体験を主役にする
- ユーザーが投稿した写真をリポストすることで、フィード全体に「生活者のリアルな声」を混ぜる
- 季節・行き先に合わせてハッシュタグを変え、常に新しい投稿を誘発するテーマを用意する
- アカウントごとにトーン(女性向け・ファミリー向けなど)を統一し、フィードを見たときの世界観にブレを作らない
これは旅行business特有の話ではなく、EC・通販・店舗ビジネスにも応用できる考え方です。「商品カット中心」から「使っている人・訪れた人の景色」中心に投稿の重心を移すことで、フォロワーが自分ごととして反応しやすくなります。
エンゲージメントを高める運用施策の要点
UGCを軸にした運用が機能する背景には、単発のキャンペーンで終わらせない継続的な運用体制があります。H.I.S.の事例から抽出できる要点は次の3つです。
リポストを「報酬」として設計する。 フォロワーの多い公式アカウントに載ることは、投稿者にとって明確なメリットになります。企業側が一方的に発信するより、ユーザーの投稿を「選び、紹介する」役割に回ることで、投稿の母数を増やせます。
ハッシュタグを固定しすぎない。 季節や行き先に応じてサブテーマのハッシュタグを設けることで、同じ「#タビジョ」経済圏の中でも常に新しい切り口の投稿を集めています。
アカウントを分けて運用負荷を最適化する。 ターゲットごとにアカウントを分けることは、一見運用の手間が増えるようですが、投稿方針が明確になる分、担当者が「何を載せるべきか」で迷う時間を減らせます。
数字で見る、なぜ今Instagram運用に投資すべきなのか
H.I.S.のような取り組みが成立する土台には、SNSが情報収集・購買行動の起点として定着してきたという背景があります。ここでは信頼できる公開統計を確認しておきます。
総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、インターネット利用者全体の中で「SNS(無料通話機能を含む)の利用」を目的として挙げた割合は81.9%と、インターネット利用目的の中で最も高い割合を占めています。年代別に見ても、20代では利用率が90%を超え、30代でも約85%、60代でも75%を超える水準に達しているとされ、SNSが特定の若年層だけのツールではなくなっていることがわかります(出典:総務省「令和6年版 情報通信白書」)。
プラットフォーム側の公式発表を見ると、Facebook Japan(現Meta)は2019年6月7日、Instagramの国内月間アクティブアカウント数が2019年3月時点で3,300万を突破したと発表しています(出典:Facebook Japan公式発表、2019年6月7日)。発表からは年数が経っていますが、Metaが公式に数値を発表した数少ない事例であり、Instagramが国内で広く定着していく転換点を示すデータとして参照されています。
また、購買行動への影響を示す調査として、マーケティングリサーチメディア「マナミナ」が紹介したホットリンク社の調査では、Instagram利用者の約5割が「Instagramをきっかけに商品を購入・来店した経験がある」と回答したことが報告されています(出典:株式会社ホットリンク調査、マナミナ掲載)。これは、Instagramが単なる認知獲得の場ではなく、購買や来店の意思決定に直接影響するチャネルになっていることを示しています。
自社アカウントに応用するための実践チェックリスト
H.I.S.の事例をそのまま真似ることはできなくても、考え方は明日から試せます。以下のチェックリストを使って、自社アカウントの現状を棚卸ししてみてください。
アカウント設計
- 今のアカウントは「誰の・どんな悩みに応えるか」が一言で説明できるか
- ターゲット層が複数に分かれすぎている場合、サブアカウントやハイライトで世界観を分けられないか
- プロフィール文・ハイライトが、ターゲットの興味に沿った構成になっているか
投稿設計
- 直近10投稿のうち、商品・サービス紹介と「利用者目線の体験」の比率はどうなっているか
- 投稿に統一感のあるハッシュタグ(固有タグ)を設定しているか
- 季節やイベントに合わせて、投稿テーマを定期的に更新しているか
UGC・エンゲージメント施策
- ユーザーが投稿したくなる「理由」(リポストされる・紹介される等)を用意しているか
- ユーザー投稿を紹介する際の許可取り・クレジット表記のルールが決まっているか
- コメントやDMへの返信ルール・目標対応時間を決めているか
振り返り
- 月次で「保存数」「プロフィールアクセス」「外部リンククリック」など行動系の指標を振り返っているか
- キャンペーン施策ごとに、投稿数・参加数の推移を記録しているか
一度にすべてを実行する必要はありません。まずは「投稿設計」のチェック項目から着手し、次の投稿でユーザー目線のカットを1枚増やしてみる、といった小さな変更から始めるのが現実的です。
まとめ
H.I.S.のInstagram運用から読み取れるポイントは、大きく3つに整理できます。1つ目は、ターゲットごとにアカウントや世界観を分けることで「誰に向けた発信か」を明確にしていること。2つ目は、「#タビジョ」に代表されるように、ユーザー投稿をリポストという形で報いる仕組みを作り、UGCを継続的に生み出していること。3つ目は、季節や行き先に応じてハッシュタグやテーマを更新し続け、コミュニティを飽きさせない運用を続けていることです。
総務省の統計が示すように、SNSはすでに幅広い年代に定着したインフラであり、購買調査の結果からも、Instagramでの接点が来店・購入に直結するケースが増えています。旅行業界に限らず、EC・通販・店舗ビジネスでも「発信する立場」から「ユーザーと一緒にコンテンツを作る立場」へと運用の重心を移すことが、これからのアカウント運用の分かれ目になりそうです。
unyouでは、H.I.S.以外にも旅行・EC・通販業界を含むさまざまな企業のSNS運用事例を蓄積しています。自社と近い業種・規模の事例を探したい方は、事例データベースもあわせてご覧ください。
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