「うちの会社も庭や店舗の写真はたくさん撮っているのに、なぜかInstagramの世界観がバラバラになってしまう」「投稿の型が定まらず、担当者が変わるたびに雰囲気が変わってしまう」——SNS運用の相談を受けていると、こうした悩みに驚くほど頻繁に出会います。特にホテルや旅館、観光施設のように「季節」「空間」「体験」という強みを持つ業種ほど、素材はあるのに発信がもったいない状態になりがちです。
そこで今回は、都心にいながら広大な庭園を持つ「ホテル椿山荘東京」の公開されているInstagram運用を題材に、なぜこのアカウント群が支持されているのか、その投稿の型や世界観のつくり方、エンゲージメントを生む工夫を分解していきます。フォロワー数やエンゲージメント率といった裏付けの取れない数字は扱わず、公開情報と公的統計、そしてunyou(https://unyou.media)のSNS運用事例データベースの知見をもとに、他の企業・店舗アカウントでも今日から応用できるポイントに落とし込みます。
ホテル椿山荘東京というアカウントの前提を押さえる
ホテル椿山荘東京は、東京都文京区に位置する高級ホテルで、最大の特徴は都心にありながら約2万坪ともいわれる広大な庭園を有している点です。庭園には滝や神社、四季折々の花々があり、宿泊やレストラン利用だけでなく「庭園そのものを楽しみに訪れる」層が存在します。この「都会にいながら非日常の自然を体験できる」という強力な資産が、Instagramという視覚メディアと極めて相性が良いことが、運用を理解するうえでの出発点になります。
公開情報を確認すると、ホテル椿山荘東京はひとつのアカウントですべてを発信するのではなく、目的別に複数のアカウントを運用していることがわかります。代表的なものを整理すると以下の通りです。
| アカウントの種類 | 主な発信内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 公式アカウント(hotelchinzansotokyo_official) | 庭園、レストラン、宿泊、季節イベントなど施設全体の魅力 | ブランド全体の世界観発信・認知拡大 |
| ウエディングアカウント(hotelchinzansotokyo_wedding) | 挙式・披露宴の演出、会場装花、実例カット | 結婚式検討層への専門的な訴求 |
| 写真室アカウント(hotel.chinzanso.tokyo.photo) | 記念写真、フォトウエディング等の作品 | 撮影サービスの世界観・技術力の可視化 |
| 採用アカウント(hotelchinzansotokyo_recruit) | 庭園に囲まれた職場の様子、スタッフの声 | 採用候補者への職場イメージ訴求 |
このように「誰に、何を届けたいか」でアカウントを分けている点は、多店舗・多事業を持つ企業や、宿泊・婚礼・飲食など複数のサービスラインを持つ施設にとって、そのまま参考になる設計です。ひとつのアカウントにあらゆる情報を詰め込むと、フォロワーが期待する投稿内容が曖昧になり、結果として世界観がぼやけてしまいます。目的別にアカウントを分けることで、それぞれのフォロワーが「見たいものが見られる」状態をつくれるのです。

なぜ今、ホテルのInstagram運用がこれほど重要視されるのか
「うちの業種にSNSは本当に効果があるのか」という疑問を持つ担当者は少なくありません。ここで、旅行・宿泊分野とInstagramの親和性を示す公開データを確認しておきましょう。
まず、総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、インターネット利用者のうち「SNS(無料通話機能を含む)の利用」の割合は全体で81.9%と、インターネットの用途の中で最も高い割合を占めています。SNSはもはや一部の人のための特別なツールではなく、生活インフラの一部になっているということがうかがえます(出典:総務省「令和6年版 情報通信白書」)。
さらに旅行・宿泊分野に限定すると、より明確な傾向が見えてきます。株式会社アイリッジが2024年に実施した「国内旅行に関するユーザー行動調査」では、回答者全体の68.8%が1年以内に国内旅行を経験しており、なかでも20代は80%と最も高い経験率でした。そして旅行計画時の情報収集方法について、20代が最も利用しているSNSはInstagramであるという結果が示されています(出典:株式会社アイリッジ「国内旅行に関するユーザー行動調査」、PR TIMES掲載)。
また、Meta社は国内のInstagram月間アクティブアカウント数が3,300万を突破したと発表しており(2019年6月、Metaについてのニュースリリースより)、ビジュアル中心のSNSが国内で広く定着していることを裏付けています(出典:Metaについて「Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3300万を突破」)。
これらのデータを重ね合わせると、「旅行先を検討する若年層ほどInstagramを情報源にしている」「SNS利用そのものが生活に深く根付いている」という2つの事実が浮かび上がります。庭園や客室、料理といった視覚的な魅力を持つホテルにとって、Instagram運用は「やった方がいい施策」ではなく「顧客の意思決定プロセスに組み込まれているチャネル」だと捉えるべきなのです。
投稿の「型」を分解する——四季とフォトスポットの活用
ホテル椿山荘東京の庭園コンテンツを見ていくと、投稿には一定の「型」があることに気づきます。これは偶然ではなく、視覚メディアで継続的にフォロワーの関心を引き続けるための、応用可能な設計です。
- 季節の変化を定点観測する:桜、新緑、紫陽花、紅葉、雪景色など、同じ庭園・同じアングルでも季節ごとに全く異なる表情を見せることができる。フォロワーにとっては「次はどんな景色になるのか」という継続的な期待を生む。
- フォトジェニックな「点」を用意する:滝、鳥居、庭園内の橋など、被写体として独立して成立するスポットを明確に持っている。これにより、ゲスト自身のUGC投稿も自然と特定の構図に集まりやすくなる。
- 体験と紐づけて紹介する:庭園単体ではなく、レストランでの食事やアフタヌーンティー、宿泊とセットで紹介することで、「見る」だけでなく「行きたい」という行動喚起につながる文脈を作っている。
この「定点観測×独立した被写体×体験への接続」という型は、ホテルに限らず応用できます。例えば飲食店であれば「季節限定メニュー×看板の一皿×来店体験」、アパレルであれば「シーズン展開×象徴的な一着×着用シーン」というように、業種を問わず置き換え可能な構造です。
世界観のつくり方——トーンとフォーマットの一貫性
Instagramで「世界観がある」と感じさせるアカウントには、共通して次の一貫性があります。
- 色味・光の質感の統一:自然光を活かした落ち着いたトーンで統一し、加工感の強い派手な色味を避ける。
- 構図の癖を持たせる:庭園を斜めから捉える、水面の反射を入れるなど、「この構図を見ればあのアカウントだとわかる」再現性を持たせる。
- キャプションの文体を揃える:季節の挨拶や情景描写を交えた丁寧な文体で統一し、担当者が変わっても「らしさ」が失われないようにする。
- 投稿頻度とタイミングを安定させる:不定期でバラバラに投稿するのではなく、季節の見頃に合わせて計画的に発信する。
重要なのは、これらのルールが「感覚」ではなく「型」として言語化・共有されている点です。担当者の異動や交代があっても世界観が崩れないアカウントは、多くの場合、投稿前に確認するチェックリストやトンマナガイドラインを持っています。中小規模の企業アカウントでも、簡易なガイドライン(使用するフィルターや避けたい構図、禁止ワードなど)を1枚にまとめておくだけで、担当者交代時の「世界観の崩壊」を防ぐことができます。
エンゲージメントを生む仕組み——UGCとハッシュタグの活用
ホテル椿山荘東京の運用でもう一つ注目すべきは、フォロワーとの一方通行の発信で終わらせず、ゲスト自身の投稿(UGC)を巻き込む仕組みを持っている点です。
公開されている事例では、公式アカウントのタグ付けとハッシュタグ(#椿山荘、#ホテル椿山荘東京など)を投稿時に付けるよう呼びかけ、集まったゲストの写真・動画を自社サイトの「Guests' Gallery」で紹介する取り組みが確認できます。さらに、InstagramのUGCを公式サイトのトップページやウエディングページに活用することで、コンテンツ制作の負荷を抑えながら、実際の利用者目線のリアルな魅力を伝える導線を作っています(出典:UGC活用事例紹介サイト「ownly」掲載記事)。
この仕組みが優れているのは、次の3つの効果を同時に実現している点です。
- コンテンツ制作コストの軽減:自社だけで全ての写真・動画を用意する必要がなくなる
- 信頼性の向上:第三者であるゲストの投稿は、企業発信よりも生活者の共感を得やすい
- フォロワーの参加意欲の醸成:「自分の投稿がホテルの公式サイトに載るかもしれない」という体験が、来訪者のさらなる発信を促す
これは、飲食店の「お客様の投稿を店舗アカウントでリポストする」施策や、アパレル店舗の「購入者コーディネートの紹介」など、業種を問わず再現可能な設計です。
明日から試せるチェックリスト
ここまでの分析を踏まえ、自社・自店舗のアカウントに落とし込むための具体的なチェックリストをまとめます。
- 発信対象(顧客・見込み顧客・採用候補者など)ごとに、アカウントまたは投稿カテゴリを分けられているか
- 自社の「定点観測できる被写体」(季節・時間帯で表情が変わる場所やモノ)を1つ以上洗い出せているか
- 独立して絵になる「フォトスポット」を社内で明確に定義し、スタッフ間で共有できているか
- 色味・構図・キャプションの文体について、簡易なトンマナガイドラインが存在するか
- 投稿を季節・行事などのカレンダーに沿って計画できているか(思いつきの単発投稿になっていないか)
- 来店・利用したお客様に向けて、公式ハッシュタグやタグ付けを呼びかける導線があるか
- 集まったUGCを自社サイトや別の販促物に還元する仕組みがあるか
- 担当者が交代しても引き継げる形で、上記のルールがドキュメント化されているか
このチェックリストを月に一度見直すだけでも、投稿のばらつきを防ぎ、アカウントの一貫性を保ちやすくなります。
他業種が真似できるポイントの整理
ホテル椿山荘東京の事例から抽出できる汎用的なポイントを、あらためて整理します。
- 資産の棚卸し:自社が持つ「視覚的に魅力のある資産」(空間・商品・人・季節性)を洗い出すことが出発点になる
- 目的別のアカウント設計:1つのアカウントに全てを詰め込まず、届けたい相手ごとに発信を分ける発想を持つ
- 型の言語化:感覚的な運用ではなく、構図・トーン・頻度を言語化し、誰が担当しても再現できる状態にする
- 顧客を巻き込む導線:ハッシュタグやタグ付けの呼びかけ、UGCの二次活用など、フォロワーを「発信者」に変える仕組みを持つ
これらは特別な予算や大規模な体制がなくても、多くの企業・店舗で明日から着手できる範囲の工夫です。重要なのは、公開されている成功事例をそのまま真似ることではなく、「なぜその型が機能しているのか」という構造を理解したうえで、自社の資産に置き換えて設計し直すことです。
まとめ
ホテル椿山荘東京のInstagram運用は、庭園という強力な視覚資産を持っていることに加え、目的別のアカウント設計、季節や被写体を活かした投稿の型、そしてUGCを巻き込む仕組みによって、一貫した世界観を保ちながら発信を続けている点に特徴があります。総務省の調査が示す通りSNS利用は生活インフラ化しており、アイリッジの調査が示す通り若年層の旅行検討においてInstagramは重要な情報源になっています。こうした背景を踏まえると、視覚的な魅力を持つ業種にとってInstagram運用は避けて通れないチャネルだと言えるでしょう。
自社の資産を棚卸しし、型を言語化し、顧客を巻き込む導線を用意する——この3つのステップは、規模や業種を問わず今日から着手できます。まずはチェックリストの中から1つでも実行に移してみてください。
より多くの業種・業態のSNS運用事例を知りたい方は、unyouの事例データベース(/cases)もあわせてご覧ください。同業種・近い規模感のアカウントがどのような投稿の型やエンゲージメント施策を実践しているか、具体的な参考事例を探すことができます。
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