「毎日投稿しているのに、フォロワーが増えない」「おしゃれな写真を上げているつもりなのに、なぜか反応が薄い」——SNS担当者からよく聞く悩みです。特に旅行・宿泊・飲食など「体験」を売る業種では、写真や動画のクオリティだけでは差がつかず、何を投稿すればブランドの世界観が伝わるのか迷っている方も多いのではないでしょうか。
そこで参考になるのが、世界的なラグジュアリーホテルブランド「フォーシーズンズ(Four Seasons)」のInstagram運用です。潤沢な予算があるから当然、と思われがちですが、実際に投稿を分析すると、予算規模に関係なく応用できる「型」がいくつも見えてきます。本記事では、公開情報とunyou(https://unyou.media)の事例データベースの知見をもとに、フォーシーズンズの投稿方針・世界観の作り方・UGC活用の考え方を分解し、自社アカウントに落とし込むための具体策を解説します。なお、フォロワー数やエンゲージメント率など裏取りできない数値は本記事では掲載していません。
フォーシーズンズとは何者か——ブランドとSNS戦略の全体像
フォーシーズンズ・ホテルズ&リゾーツは、カナダ発のラグジュアリーホテルチェーンで、世界各国にプロパティ(施設)を展開しています。SNS運用の特徴は、本社が運営する「@fourseasons」のようなグローバルアカウントと、各リゾート・各都市の施設がそれぞれ個別に運用するローカルアカウントが併存している点です。
たとえば「フォーシーズンズ ボラボラ」「フォーシーズンズ京都」のように、施設ごとにアカウントを分け、その土地・その施設ならではの体験を発信しています。グローバルアカウントが「ブランド全体の世界観」を担い、ローカルアカウントが「その場所でしか味わえない具体的な体験」を担う、という役割分担がなされているのが特徴です。
これは中小企業や個人店にもそのまま応用できる考え方です。複数店舗を展開している場合、本部アカウントと店舗アカウントの役割を分けるだけで、発信の解像度が大きく変わります。

なぜ「見るたびに欲しくなる」のか——世界観の作り方を分解する
フォーシーズンズの投稿を続けて見ていくと、いくつかの一貫したルールが見えてきます。
1. 「モノ」ではなく「時間」を撮る プールや客室そのものをスペック的に見せるのではなく、「朝日を浴びながらのヨガ」「夕暮れのディナー」のように、そこで過ごす時間の質感を切り取っています。商品説明ではなく、体験の予告編を作っている感覚です。
2. 色とトーンの統一 投稿ごとに色味がバラバラだと、フィード全体を見たときに世界観が崩れます。フォーシーズンズは施設ごとに色調(南国リゾートなら青緑系、都市ホテルなら落ち着いたアースカラー系など)を統一し、フィード全体で「その場所らしさ」を作り上げています。
3. 人物の「表情」より「後ろ姿・佇まい」を多用する 顔がはっきり写る写真よりも、景色に溶け込む後ろ姿や横顔のカットが多く使われます。これにより、見る人が「自分がそこにいる姿」を想像しやすくなる効果があります。
これらは高価な機材がなくても再現できる考え方です。重要なのは「何を撮るか」より先に「どんな時間を伝えたいか」を決めることです。
投稿の「型」を分解する——フォーシーズンズの投稿パターン分析
投稿内容を機能別に整理すると、大きく次のようなパターンに分けられます。
| 投稿タイプ | 目的 | 真似できるポイント |
|---|---|---|
| 施設・客室の情緒的カット | ブランド世界観の醸成 | 「モノ」でなく「そこで過ごす時間」を切り取る |
| 現地の自然・文化・食 | 施設単体でなく「土地の魅力」を伝える | 商品でなく「行く理由」を発信する |
| ゲストの投稿を紹介(UGC) | 信頼感の醸成、双方向性の演出 | ハッシュタグやタグ付けでゲスト投稿を集め、許可を得て紹介する |
| スタッフや職人の紹介 | 裏側の物語、ブランドの人格化 | 「誰が作っているか」を見せて親近感を作る |
| 季節・イベント企画 | 話題喚起、来店・予約動機の創出 | 年間カレンダーで「今しか見られない」体験を予告する |
| リール(短尺動画) | 新規層へのリーチ拡大 | 静止画では伝わらない「音・動き・空気感」を見せる |
このように、投稿は「世界観を作る投稿」と「行動(予約・来店)のきっかけを作る投稿」に役割が分かれています。すべての投稿を同じ温度感で作るのではなく、役割ごとに意図を持たせることが重要です。
UGCとインフルエンサー施策——「Envoy」プログラムに学ぶ考え方
フォーシーズンズのSNS戦略で特徴的なのが、「Envoy(エンボイ)」と呼ばれるコンテンツクリエイター向けプログラムです。複数の海外メディアの報道によると、このプログラムはフォロワー数の多さでクリエイターを選ぶのではなく、コンテンツの「質」を基準に選定する、いわゆる“follower-blind(フォロワー数を見ない)”な選び方を採っているとされています(参考:Neal Schaffer「Four Seasons Social Media」、AdExchanger、Strategy Online各記事)。
これは中小規模のアカウントにとって非常に重要な示唆です。「フォロワー数が多いインフルエンサーに依頼しなければ効果がない」という思い込みは誤りで、むしろ自社のトーン・世界観と親和性の高い発信者と組む方が、ブランドイメージの毀損リスクも低く、コストパフォーマンスも高くなりやすいということです。
またフォーシーズンズは施設ごとの独自ハッシュタグを設け、宿泊客が投稿した写真を許可を得たうえで紹介する運用も行っています。これにより「広告っぽさ」を抑えながら、実際の体験に基づいた説得力のあるコンテンツをストックできる仕組みを作っています。UGCを活用する際は、無断転載を避け、必ずDMやコメントで許諾を取ってからクレジット表記をして紹介する、という基本手順を徹底することが信頼構築の前提になります。
データで見る、なぜ「体験を売る業種」にInstagramが効くのか
感覚論だけでなく、公的データからも旅行・宿泊業とInstagramの相性の良さが裏付けられています。
- 総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、全年代におけるInstagramの利用率は52.6%で、LINEに次いで高い水準にあります。
- 同白書関連調査では、インターネット利用目的のうち「SNSの利用」の割合が81.9%と最も高く、生活導線の中でSNSが情報収集の主要な入口になっていることが分かります。
- PR TIMES掲載の調査リリース「Z世代の60%が旅行プラン決めにSNSを使用」によると、旅行プランを立てる際にSNSを参考にするZ世代は約6割にのぼり、利用SNSの中では「Instagram」が33.12%で最多となっています。
これらのデータが示すのは、特に旅行・宿泊のように「行ってみないと分からない体験」を扱う業種において、購入(予約)前の情報収集段階でInstagramが強い影響力を持っているという事実です。フォーシーズンズがフィードの世界観づくりに投資している背景には、こうした「予約前の想像を膨らませる」役割をInstagramが担っているという構造があります。
明日から試せる実践チェックリスト
フォーシーズンズの運用から抽出できるポイントを、規模を問わず使えるチェックリストにまとめました。
- 投稿前に「何を売るか」でなく「どんな時間を伝えるか」を一言で決める (例:「ランチのメニュー」ではなく「平日の昼下がりに一人でほっとする時間」)
- フィード全体の色調・トーンを3色以内に絞る 投稿ごとに色味が揺れていないか、9投稿分をまとめて並べて確認する。
- 投稿を「世界観系」と「行動喚起系」に分けて配分を決める すべてを宣伝色の強い投稿にしない。目安として世界観系を7割、行動喚起系を3割程度に。
- 自社・自店専用のハッシュタグを1つ作り、プロフィール欄と店頭POPで告知する お客様が投稿しやすい合言葉を用意する。
- お客様の投稿を見つけたら、DMまたはコメントで許可を取ってから紹介する 無断転載はトラブルの元になるため必ず一言添える。
- 月に1本でよいのでリール(短尺動画)を入れる 静止画では伝わらない「音・匂い・空気感」を想像させる動画を用意する。
- 複数拠点がある場合は、本部アカウントと店舗アカウントの役割を分ける 本部=ブランド全体の世界観、店舗=その場所ならではの体験、という分担を意識する。
- 投稿頻度よりも「フィード全体で伝わる世界観」を優先する バラバラな投稿を量産するより、統一感のある投稿を計画的に積み上げる。
これらは特別な予算や機材がなくても着手できるものばかりです。重要なのは、思いつきで投稿するのではなく、「誰に」「どんな時間を」「なぜ今」届けるのかを、投稿前に一呼吸おいて言語化する習慣です。
旅行・宿泊業以外でも応用できる理由
フォーシーズンズの事例は海外の高級ホテルの話ではありますが、抽出できる考え方自体は業種を問いません。飲食店であれば「料理そのもの」ではなく「その場で過ごす時間」を切り取る発想に、美容室であれば「施術後の髪型」ではなく「仕上がりを見て嬉しそうにしている表情」に置き換えられます。エステやジムであれば「ビフォーアフター」の数値訴求だけでなく、通うことで得られる日常の変化を描くこともできるでしょう。
大切なのは「うちは高級ホテルじゃないから真似できない」と切り捨てるのではなく、「なぜその投稿が世界観を伝えているのか」という構造だけを抜き出して、自社の業種・規模に合わせて翻訳することです。
まとめ
フォーシーズンズのInstagram運用から学べるのは、「高級ホテルだから伸びている」という単純な話ではなく、投稿ごとに役割を持たせ、フィード全体で世界観を統一し、UGCを信頼構築の材料として活用しているという、再現性のある設計思想です。総務省やPR TIMES掲載調査が示す通り、Instagramは特に旅行や体験を扱う業種において、予約・来店前の意思決定に強く影響する場になっています。まずは自社アカウントの直近9投稿を並べて眺め、「伝えたい時間」が一貫しているかどうかを確認するところから始めてみてください。
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