「大企業のSNSはブランド力があるから伸びているだけで、自社には関係ない」——BtoB色の強い企業や店舗のSNS担当者と話していると、必ずと言っていいほどこの言葉を耳にします。実際、通信キャリアのような巨大企業の公式アカウントを見て、「フォロワー数も予算も違いすぎて参考にならない」と感じてしまうのは自然なことです。
けれど、投稿の中身を丁寧に分解していくと、そこには企業規模に関係なく応用できる「型」があります。本記事では、NTTドコモの公式Instagramアカウント(@docomo.official)の運用を、公開情報とunyouの事例データベース(https://unyou.media)の知見をもとに分析し、他の企業や店舗アカウントがそのまま持ち帰れる具体的なポイントに落とし込みます。フォロワー数やエンゲージメント率など、裏付けの取れない数字は本記事では一切扱いません。あくまで「何を、どんな型で、なぜ発信しているか」という運用の構造に焦点を当てます。
NTTドコモの公式Instagramはなぜ「BtoBらしくない」のに支持されるのか
NTTドコモの公式Instagramアカウント(@docomo.official)は2020年8月に開設されました。開設時、公式X(旧Twitter)アカウントでは「Instagramではリアルな日常をテーマに情報を発信していきます!CM撮影の裏側も見られちゃうかも…!?」というコメントとともに告知が行われています。この一文に、このアカウントの設計思想がほぼすべて凝縮されています。
通信キャリアという事業内容だけを見れば、投稿できるネタは「料金プラン」「サービス改定」「キャンペーン告知」といった無機質な情報に偏りがちです。しかしNTTドコモは、あえて「リアルな日常」「CM撮影の裏側」というエンタメ・舞台裏コンテンツを軸に据えました。これは、フォローする理由がない企業アカウントに「フォローする理由」を後付けで作る発想であり、BtoB企業や専門性の高い店舗アカウントにもそのまま応用できる考え方です。
またNTTドコモは、@docomo.official(全社公式)のほかに、地域密着型の @docomo_yamanashi のような支社アカウント、研究開発を発信する @docomord、法人向けサービスを扱う @nttdocomobusiness など、目的別にアカウントを分けて運用しています。これはNTTドコモ公式サイトの「ソーシャルメディアポリシーおよび公式アカウント一覧」でも明示されており、一つのアカウントに全ての情報を詰め込まず、ターゲットごとに発信を最適化する設計思想がうかがえます。

SNS利用の裾野拡大という追い風を理解する
NTTドコモの運用を語る前提として、日本国内のSNS利用状況を押さえておく必要があります。総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、X(旧Twitter)やInstagramは2024年時点で全体の約半数が利用しており、50代においても4割以上が利用するなど、若年層だけでなく幅広い年代に利用が拡大しています。かつて「Instagramは若い女性のもの」という先入観がありましたが、現在はミドル・シニア層を含めた生活インフラの一部になっているのです。
また、Instagramの日本国内利用実態について、Meta社(当時のFacebook Japan)は2019年6月7日、国内の月間アクティブアカウント数が3,300万を突破したと公式発表しています。これ以降、プラットフォーム別・国別の詳細な利用者数は同社の決算方針変更により公表されていませんが、この発表だけでも「一部のユーザーだけが使うツール」ではなく、国民的なインフラに達していたことがわかります。
通信キャリアであるNTTドコモにとって、この「生活者のほぼ全世代がInstagramにいる」という状況は、BtoC接点を維持・強化するうえで無視できないチャネルです。同時に、この事実は業種・規模を問わずすべての企業に当てはまります。自社の顧客層に「Instagramをやっていない年代」はもはや少数派になりつつある、という前提でアカウント設計を考える必要があります。
投稿の「型」を分解する——ジャンルとバリエーション
NTTドコモの投稿を継続的に見ていくと、大きく次のようなジャンルに整理できます。
| 投稿ジャンル | 目的 | 具体例 |
|---|---|---|
| 舞台裏・メイキング系 | 親近感・エンタメ性の付与 | CM撮影の裏側、出演タレントのオフショット |
| キャラクター活用系 | ブランド想起・世界観の統一 | マスコット「ドコモダケ」を使った季節企画(バレンタイン等) |
| キャンペーン・参加型 | フォロワー獲得・エンゲージメント創出 | フォロー&いいね/コメントでdポイントが当たる企画 |
| 生活情報・お役立ち系 | 実用性の提供 | スマホの使い方、サービス活用Tips |
| 地域密着系(支社アカウント) | ローカル顧客との関係構築 | 各都道府県の店舗・イベント情報 |
特徴的なのは、「サービス紹介」一辺倒ではなく、エンタメ性の高い舞台裏コンテンツとキャラクター企画を組み合わせている点です。dポイントクラブの公式キャンペーンページでは、「ドコモInstagramアカウントをフォロー&いいねでdポイントが当たる」「ドコモダケからハッピーバレンタイン」といった参加型施策が定期的に実施されていることが確認できます。フォロー&いいね、あるいはコメントという低いハードルの参加条件を設定し、賞品はサービスと直結するdポイントにすることで、キャンペーン参加者がそのまま実際のサービス利用者・見込み顧客になりやすい設計になっています。
世界観づくりの鍵:マスコットとリアルな日常軸の両立
企業アカウントが陥りやすい失敗のひとつが、「毎回別のトーンで投稿してしまい、世界観が定まらない」ことです。NTTドコモはこの課題を、マスコットキャラクター「ドコモダケ」という一貫した視覚的シンボルと、「リアルな日常」という緩やかなテーマ設定の両輪で解決しています。
キャラクターを起点にすることで、季節ごとのイベント(バレンタイン、年末年始など)に合わせた企画を作りやすくなり、投稿の企画会議自体がシンプルになります。またキャラクターは「企業が主語」の投稿を「キャラクターが主語」の投稿に変換してくれるため、宣伝色が強い内容でも受け手の心理的な抵抗が下がるという効果もあります。これは通信キャリアに限らず、明確なマスコットやビジュアルアイコンを持たない企業でも、色使い・フォント・写真のトーンなど「視覚的な一貫性」に置き換えて応用可能な考え方です。
エンゲージメントを生むキャンペーン施策の作り方
NTTドコモの公式Instagramで繰り返し実施されているキャンペーンの型を分解すると、共通する設計原則が見えてきます。
- 参加条件を最小化する(フォロー&いいね、またはコメントのみ)
- 賞品を自社サービスに直結させる(dポイントなど、次の利用行動につながるインセンティブ)
- 開催時期を生活イベントに合わせる(バレンタイン、年末年始などの季節行事)
- 当選連絡をDMで行い、フォロー継続の動機を作る
- 定期的に繰り返す(単発で終わらせず、継続的な参加習慣を作る)
この設計の本質は、「フォロワーを増やすこと」自体を目的にせず、「フォローし続ける理由」と「実際のサービス利用」を同じ導線上に乗せている点にあります。単に景品を配るだけのキャンペーンはフォロワーの一時的な増加はもたらしても、キャンペーン終了後に大量のフォロー解除(アンフォロー)を招きがちです。自社サービスと直結した報酬設計にすることで、質の高いフォロワーの定着を狙っている点は、規模の大小を問わず参考にできる考え方です。
他社が真似できるチェックリスト
NTTドコモの運用から抽出した要素を、明日から自社アカウントで試せるチェックリストとしてまとめます。
- 自社の投稿を分類したとき、「宣伝・告知」だけに偏っていないか(舞台裏・人物・日常のジャンルを1つ以上入れる)
- アカウントの世界観を象徴する視覚的な軸(キャラクター、色、写真のトーン)が定まっているか
- キャンペーンの参加条件は「フォロー+いいね/コメント」など、最小の手間で完結する設計になっているか
- キャンペーンの賞品・インセンティブが自社サービスの利用や来店に結びつく設計になっているか
- 季節イベント・生活サイクルに合わせた投稿企画をあらかじめカレンダー化しているか
- ターゲットが複数ある場合、目的別にアカウントを分ける(または投稿タグ・ハイライトで整理する)検討をしたか
- 投稿の目的を「フォロワー数」ではなく「その先の行動(来店・購入・問い合わせ)」に置いているか
- 支社・店舗単位で発信する場合、全社アカウントとのトーンの整合性を保っているか
これらは特別な予算やリソースを必要とするものではなく、投稿企画の「設計思想」を見直すだけで着手できる項目です。特に最初の2つ(ジャンルの偏り是正、視覚的な軸の設定)は、次回の投稿から即座に反映できます。
大企業と中小企業・店舗運用の違いをどう埋めるか
もちろん、NTTドコモのような大企業と、地域の店舗や中小企業では使えるリソースが大きく異なります。CM撮影のような自社コンテンツの「裏側」がそもそも存在しない事業者も多いでしょう。しかし本質は「撮影規模」ではなく「顧客が知らない側面を見せる」という構造にあります。飲食店であれば仕込みの様子、美容室であればスタイリストの一日、士業であれば相談を受けるまでの過程など、業種を問わず「裏側」は必ず存在します。
またキャンペーン施策についても、大規模な景品を用意する必要はありません。自社の商品・サービス・クーポンなど、次の来店や購入につながるインセンティブであれば、参加条件を最小化する設計原則はそのまま活用できます。重要なのは景品の大きさではなく、「参加のしやすさ」と「参加後の行動導線」が一直線につながっていることです。
まとめ
NTTドコモの公式Instagram運用を分解すると、①宣伝色の強い情報だけに偏らず舞台裏・日常軸のコンテンツを組み込む、②マスコットや視覚的な軸でアカウントの世界観を統一する、③参加ハードルの低いキャンペーンを自社サービスと直結させる、という3つの構造が見えてきます。これらはいずれも、企業規模やフォロワー数に関係なく再現可能な「型」です。自社の投稿を振り返り、まずは1つのジャンルの偏りを見直すところから始めてみてください。
同業種・他業種のより具体的な運用事例を知りたい方は、unyouの事例データベース(/cases)で、実際のSNS運用アカウントの投稿設計やキャンペーン施策を数多く確認できます。自社に近い業種・規模の事例を探し、今回紹介した視点と照らし合わせてみることをおすすめします。
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