「うちの店も、うちの施設も、Instagramで魅力は伝わっているはずなのに、フォロワーがなかなか増えない」「投稿ネタが尽きて、気づけば同じような写真ばかり載せている」——SNS担当者から、こうした悩みを聞くことは少なくありません。とくに観光・地域・自治体系のアカウントは、「きれいな写真を載せているのに反応が薄い」という壁にぶつかりがちです。
そこで参考になるのが、日本有数の観光地・京都市の公式観光組織である「公益社団法人 京都市観光協会(DMO KYOTO)」のSNS運用です。京都という強力なブランドを持ちながらも、ただ美しい写真を並べるだけでなく、観光課題そのものを企画に落とし込み、フォロワーを巻き込む仕組みを丁寧に設計しています。本記事では、公開情報をもとに京都市観光協会のInstagram運用を分解し、企業・店舗のSNS担当者が明日から応用できるポイントに落とし込んでいきます。なお、確証の取れないフォロワー数やエンゲージメント率などの数値は掲載せず、公開されている事実ベースで解説します。
京都市観光協会(DMO KYOTO)とはどんな組織か
京都市観光協会は、京都市の観光振興を担う公益社団法人で、「DMO KYOTO」というブランド名でも活動しています。DMOとは「Destination Management/Marketing Organization」の略で、単なる観光PR団体ではなく、地域の観光資源をマネジメントし、宿泊・消費動向の調査から誘客キャンペーンの企画・実行までを一体的に担う組織です。
同協会は「京都観光Navi」といった公式サイトのほか、「とっておきの京都プロジェクト」という取り組みを軸に、SNSでの情報発信を行っています。このプロジェクトの狙いは、清水寺や嵐山のような定番の観光地だけでなく、まだ知られていない「隠れた京都」の魅力を伝え、観光客を特定エリア・特定時期に集中させないようにすることにあります。つまりInstagram運用の背後には、「発信して終わり」ではなく「観光課題の解決」という明確な経営目的があるのです。この視点は、企業や店舗のSNS運用を考えるうえでも重要な示唆になります。SNSは広報活動である前に、事業課題を解決するための手段だという原点です。

Instagram運用の全体像|季節ごとの「テーマ設計」という土台
京都市観光協会のInstagram運用でまず目を引くのは、年間を通じて「テーマ」を明確に設定していることです。同協会は例年、季節に合わせたInstagramキャンペーンを実施しており、令和6年度は「秋の色、インスタントに。」、令和7年度は「見つけた!隠れた京都の秋」というテーマを掲げてキャンペーンを展開しています(京都市観光協会公式サイトのニュースリリースより)。
いずれのテーマにも共通するのは、「季節感」と「隠れた名所」という2つの軸です。定番スポットの美しい写真を並べるだけでなく、その時期・そのテーマでしか見られない京都の姿を切り取ることで、フォロワーに「今しか見られない」「ここでしか見られない」という価値を提供しています。これは単発の投稿の寄せ集めではなく、年間カレンダーに沿ってテーマを更新し続ける「編集方針」を持っているということです。企業アカウントでも、思いつきで投稿するのではなく、四半期・季節ごとにテーマを決めてから個別の投稿内容を組み立てる方が、アカウント全体に一貫性が生まれます。
伸びている理由①:観光課題そのものを企画に変えるキャンペーン設計
京都は近年、観光客の集中による混雑、いわゆるオーバーツーリズムが社会的な課題として取り上げられてきました。京都市が公表した「令和7(2025)年 京都観光総合調査」によれば、2025年に京都市を訪れた観光客数は6,279万人と初めて6,000万人を超えて過去最高を記録し、そのうち外国人観光客は1,268万人、観光消費額は2兆474億円に達しています。同調査では、観光客への聞き取りで「京都観光に満足した」との回答が9割を超えた一方、「残念なことがあった」と答えた割合は日本人で47.2%、外国人で21.0%にのぼり、その理由の1位は日本人・外国人ともに「混雑(観光客が多すぎるなど)」だったことも明らかになっています。
このデータが示すのは、京都市観光協会にとって「もっと人を呼ぶこと」だけがゴールではないという事実です。むしろ、定番スポットへの一極集中を緩和し、観光客を時期・エリアの両面で分散させることが重要な経営課題になっています。だからこそ「隠れた京都の秋」というキャンペーンテーマが生まれ、Instagramというメディアが、単なる集客ツールではなく「観光客の行動を望ましい方向に誘導するための装置」として機能しているのです。
この発想は企業のSNS運用にも応用できます。自社が抱えている経営課題(在庫の偏り、繁閑差、特定商品への偏った人気など)をまず言語化し、その課題を解決する切り口をコンテンツ企画に落とし込む。「バズりそうな投稿」を探すのではなく、「自社の課題を解決する投稿」を設計するという発想の転換です。
伸びている理由②:フォロワーを「巻き込む」参加型の仕組み
京都市観光協会のInstagramキャンペーンのもう一つの特徴は、一方的な情報発信ではなく、ユーザーが参加できる設計になっている点です。季節ごとのテーマに沿って一般ユーザーが写真を投稿し、指定のハッシュタグで参加する形式のキャンペーンを継続的に実施しています。
こうした参加型(UGC=ユーザー生成コンテンツ)の仕組みには、少なくとも3つのメリットがあります。
- 運営側だけでは撮影しきれない多様な視点・スポットの写真が集まり、コンテンツの幅が広がる
- 投稿したユーザー自身が「見てもらいたい」という動機でシェアするため、自然な拡散が生まれやすい
- 参加したユーザーが京都観光協会のアカウントに継続的に関心を持つきっかけになる
自治体や大規模観光地でなくても、この考え方は応用可能です。たとえば地域の飲食店であれば「来店時のワンシーンを指定ハッシュタグで投稿してもらう」、アパレルであれば「購入した商品のコーディネート投稿を集める」など、規模に応じた参加型企画を設計できます。重要なのは、企業側が一方的に発信し続けるのではなく、フォロワーが「参加できる余地」をあらかじめ用意しておくことです。
伸びている理由③:内製と外部委託を使い分け、学び続ける体制
京都市観光協会は、公式Instagramの運用そのものについて、毎年度プロポーザル方式(企画競争)で外部の運用事業者を公募しています。実際に「令和7年度 京都市観光協会公式インスタグラム運用業務」の委託先募集が同協会の公式サイトで公開されており、運用の実務は専門性を持つ事業者に委託しつつ、キャンペーンのテーマ設計や年間方針は協会自身が主導する体制がうかがえます。
さらに興味深いのは、同協会が2025年2月に「京都の人気Instagramアカウントから運用の工夫を学ぶ」というテーマのSNS勉強会を開催している点です。自らのアカウントを運用するだけでなく、京都エリアで支持されている他のアカウントの工夫を継続的に研究し、ノウハウを取り入れようとする姿勢が読み取れます。
この「戦略は自分たちで持ち、実務は適材適所で任せ、常に他アカウントから学ぶ」という体制は、リソースが限られる企業にとっても現実的な選択肢です。全てを内製する必要はなく、逆に全てを丸投げしてしまうと自社らしさが失われるリスクもあります。どこまでを自社で担い、どこを外部に委ねるかという線引きに悩む場合は、内製と外注のメリット・デメリットを整理した記事(後述の関連記事)も参考になります。
世界観のつくり方|「四季」「伝統」「穴場」という一貫したトーン
京都市観光協会の発信に共通するのは、四季の移ろい・伝統文化・穴場という3つのキーワードで世界観を統一している点です。「秋の色」「隠れた京都」といったキャンペーンタイトルからも分かるように、投稿ごとにテーマはローテーションしても、根底にある世界観(=京都らしさ)はぶれていません。
企業アカウントでよくある失敗は、担当者が変わるたびに写真のトーン、文体、投稿の切り口がバラバラになってしまうことです。世界観を統一するために、京都市観光協会の事例から学べる具体的な工夫は次の3点です。
- キャンペーンごとに「今回はこのテーマで統一する」というコンセプトを言語化してから投稿を作る
- 写真の色味・構図(自然光、余白の取り方など)にある程度の型を決めておく
- キャッチコピーや文体のトーンを、季節が変わっても大きく崩さない
これらは特別な予算がなくても、社内でルール化するだけで実践できる工夫です。
数字で見るSNSと観光マーケティングの重要性
京都市観光協会のような取り組みが有効な背景には、SNSがすでに情報収集・行動喚起の主要チャネルになっているという土台があります。以下、公的機関の公表データを整理します。
| データ項目 | 数値・内容 | 出典 |
|---|---|---|
| インターネット利用者のうちSNSを利用している割合 | 81.9% | 総務省「令和6年通信利用動向調査」 |
| 2025年に京都市を訪れた観光客数 | 6,279万人(過去最高) | 京都市「令和7(2025)年 京都観光総合調査」 |
| 2025年の京都市のインバウンド(外国人)観光客数・観光消費額 | 1,268万人/2兆474億円 | 京都市「令和7(2025)年 京都観光総合調査」 |
| 観光客が「残念だった」と回答した割合(理由1位は混雑) | 日本人47.2%/外国人21.0% | 京都市「令和7(2025)年 京都観光総合調査」 |
これらの数字から読み取れるのは、SNSがすでに国内の大多数の生活者にとって当たり前の情報接点になっている一方で、京都のような人気観光地では「混雑」という負の体験が満足度を下げる要因になっているという構造です。京都市観光協会のInstagram運用が「分散」というテーマを繰り返し打ち出しているのは、この構造的な課題に対する現実的な打ち手だと理解できます。自社の商圏やターゲットにおいても、SNS利用が前提になっていることを踏まえたうえで、自社ならではの「解決すべき課題」を起点に発信内容を設計する視点が欠かせません。
明日から試せる実践チェックリスト
京都市観光協会の事例から抽出した工夫を、自社アカウントに応用するためのチェックリストです。
- 自社が抱えている経営課題(繁閑差、認知不足、特定商品への偏りなど)を1つ書き出す
- その課題を解決する切り口で、次の1〜3カ月のテーマを1つ決める(例:「平日限定の楽しみ方」「定番以外のおすすめ」など)
- テーマに沿って、フォロワーが参加できる企画(指定ハッシュタグでの投稿募集など)を1つ設計する
- 投稿の写真トーン・文体のルールを簡単に言語化し、担当者間で共有する
- 自社と同じ業種・エリアで支持されているアカウントを3つ選び、投稿頻度・切り口・世界観を分析する
- 運用のうち「自社の判断が必要な戦略部分」と「実務作業」を切り分け、外部委託の可否を検討する
- 月に一度、テーマ設定から実際の反応までを振り返り、次のテーマ設計に反映する
このプロセスは特別な予算やツールを必要としません。重要なのは「なんとなく投稿する」状態から抜け出し、テーマと目的を先に決めてから投稿内容を組み立てる順序に変えることです。
まとめ
京都市観光協会のInstagram運用が示しているのは、知名度やブランド力だけに頼らず、観光課題(混雑の分散)という明確な目的を軸にテーマ設計を行い、フォロワーが参加できる仕組みを用意し、運用体制を内製と外部委託で適切に使い分けながら、他アカウントからも学び続けるという地道な積み重ねです。派手な演出やバズを狙うのではなく、「自社(自団体)の課題を解決するための発信」という原点に立ち返ることが、遠回りに見えて最も再現性の高いアプローチだと言えるでしょう。
同様に自治体や地域・観光関連のSNS運用を分析した事例は、unyouの事例データベース(/cases)でも多数紹介しています。自社と近い業種・規模のアカウントがどのような運用をしているか、あわせてチェックしてみてください。
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京都市観光協会の公式サイト・ニュースリリース、京都市発表の観光統計、総務省の通信利用動向調査など、公開情報のみを根拠にしており、フォロワー数やエンゲージメント率など裏取りできない数値は記載していません。ファイル保存が必要であれば教えてください。
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