「うちも新作情報とビジュアルはしっかり投稿しているのに、なぜかフォロワーが増えない」「ハイブランドの美容アカウントは世界観が完璧で、正直何を参考にすればいいのか分からない」——SNS担当者からよく聞く悩みです。特に化粧品・コスメ業界は競合アカウントの数が多く、ビジュアルのクオリティも年々上がっているため、「何を真似すればいいのか」の輪郭が掴みにくい領域だと言えます。
そこで今回は、資生堂グループのプレステージメイクアップブランド「NARS(ナーズ)」の公式Instagram(@narscosmeticsjapan)を取り上げます。フランス人フォトグラファー兼メイクアップアーティストのフランソワ・ナーズが1994年に立ち上げ、2000年に資生堂が買収したという背景を持つブランドで、写真表現へのこだわりがブランドDNAに刻まれています。本記事では、確証のあるフォロワー数やエンゲージメント率などの具体的数値は掲載せず、公開されている投稿内容・運用の型・公表統計をもとに「なぜ支持されているのか」「どこを自社アカウントに応用できるのか」を分解していきます。
NARS(ナーズ)とは?ブランドとInstagram運用の背景
NARSは「Orgasm」ブラッシュなど象徴的なプロダクトを持つプレステージコスメブランドで、創業者自身がフォトグラファーだったことから、ビジュアル表現のクオリティに強いこだわりを持つことがブランドの特徴として知られています。日本では公式Instagram「NARS Cosmetics Japan」(@narscosmeticsjapan)が運用されており、新製品情報、アーティストによるメイクアップテクニック、キャンペーン情報などを発信しています。また、ポップアップイベントに合わせてInstagramライブ配信を行うなど、オンラインとオフラインの体験を接続する運用も行われています。
このように「ビジュアル起点のブランド」であることと「体験を軸にした施策」を組み合わせている点は、後述する運用の型を理解する上での前提になります。

なぜNARSのInstagramは支持されているのか
公開されている投稿を分析すると、支持を集めている要因は大きく3つに整理できます。
1. ブランドの世界観とプロダクトの世界観が一致している 写真表現にこだわる創業者のDNAが、投稿のビジュアルクオリティに反映されています。単なる「商品を並べた画像」ではなく、光の入り方や質感まで意識した写真・動画が使われており、フィード全体を眺めたときに「NARSらしさ」が一目で伝わる構成になっています。
2. 「使い方」の情報が惜しみなく提供されている 新製品の紹介だけでなく、メイクアップアーティストの技術に基づいたテクニック系のコンテンツが発信されています。プレステージブランドは価格帯が高いため、「買ってどう使うか」がイメージできることが購買の後押しになります。
3. オンラインとオフラインの体験がつながっている ポップアップイベントの開催に合わせてInstagramライブを配信するなど、実店舗・イベントでの体験をInstagram上でも共有できる設計になっています。フォロワーは「今どこで何が起きているか」をアカウント経由で把握できます。
投稿の「型」を分解する
NARSのようなプレステージコスメブランドの投稿を見ていくと、コンテンツはおおよそ次のような型に分類できます。これは他の美容・コスメアカウントにも共通する、応用性の高い分類です。
| 投稿の型 | 目的 | 自社での応用ポイント |
|---|---|---|
| プロダクトビジュアル | 世界観の提示・新作の印象付け | 撮影の光・背景・トリミングのルールを統一する |
| メイクアップテクニック(チュートリアル) | 使用イメージの提供・購買後押し | 「誰でも真似できる」粒度でHowを見せる |
| アーティスト・専門家起用コンテンツ | 専門性・信頼性の付与 | 社内の専門スタッフを「顔」として出す |
| キャンペーン・新作告知 | 話題づくり・回遊導線 | 投稿だけで終わらせずストーリーズ・ライブに連携する |
| イベント・ライブ配信告知 | オフライン体験との接続 | 店舗イベントは告知だけでなく当日の様子も発信する |
| UGC・レビュー系コンテンツ | 信頼性の補強・口コミ増幅 | ハッシュタグ運用でユーザー投稿を集めやすくする |
重要なのは、これらの型を「その場の思いつき」で使うのではなく、投稿カレンダー上で意図的に組み合わせている点です。プロダクトビジュアルだけが続くと世界観は保てても情報としての実用性が薄くなり、テクニック系だけが続くとブランドらしさが薄れます。型のバランス設計こそが、企業アカウントが最も真似しやすく、かつ効果の出やすいポイントです。
世界観のつくり方:写真・色調・テキストの一貫性
NARSのアカウントを見て多くの運用担当者が感じるのは「フィード全体の統一感」です。これは高価な撮影機材を使わなければ実現できないものではなく、以下のような「ルール化」によって多くのアカウントで再現可能です。
- 色調のルール:ブランドカラーやプロダクトの色に合わせて、写真の彩度・明るさのトーンを統一する
- 背景・質感のルール:使用する背景素材(布・石材・紙など)を数種類に絞り、ランダムに増やさない
- 構図のルール:商品を置く位置(中央か三分割か)、余白の取り方を統一する
- テキストの語り口:キャプションの一人称・敬語レベル・絵文字の使用量を統一する
世界観は「良い写真を撮ること」よりも「ルールを決めて守り続けること」で作られます。担当者が変わっても崩れない仕組みにしておくことが、長期運用における再現性を高めます。
エンゲージメントを生む施策:UGC・キャンペーン・体験設計
NARSの運用で参考にしたいのは、「投稿を見せるだけ」で終わらせず、フォロワーの行動を促す設計を組み込んでいる点です。具体的には次のような施策が確認できます。
- キャンペーン・新作発売に合わせたInstagram上での情報発信
- ポップアップイベントとInstagramライブ配信の連動
- アーティストによるメイクアップテクニックの発信による「試したくなる」導線づくり
これらは単発の施策ではなく、「新作発売→情報発信→イベント開催→ライブ配信→体験の共有」という一連の流れとして設計されている点がポイントです。多くの企業アカウントは新作告知で終わってしまいがちですが、体験までフォロワーに追体験させることで、投稿への反応(コメント・保存・シェア)が生まれやすくなります。
数字で見る、SNS運用がコスメ業界で重要な理由
ここで、なぜコスメ業界においてInstagram運用への投資が合理的なのか、公表されている統計から確認しておきます。
まず、総務省「令和6年版 情報通信白書」(総務省情報通信政策研究所による情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査)によると、Instagramの利用率は10代から30代で70%を超えており、若年層から30代にかけて非常に高い普及率を持つプラットフォームであることが分かります。化粧品の主要な購買層とInstagramの主要利用層は大きく重なっており、このレイヤーへ情報発信すること自体に高いポテンシャルがあると言えます。
また、コスメの口コミサービス「LIPS」を運営する株式会社AppBrewが公表した調査(PR TIMES掲載「LIPS labo」2024年11月号)では、SNS経由でのコスメ購入実態が調査されており、SNSがコスメの購買行動に深く組み込まれていることが示されています。
さらに、美容メディア「MimiTV」による「#美容オタク世論調査」(宣伝会議AdverTimes.掲載)では、PR投稿を参考にコスメを購入した人が7割以上に達しているという結果が報告されています。これは、単なるブランド公式発信だけでなく、口コミ・レビューに類する情報が購買の意思決定に大きく影響していることを示しており、NARSのようなブランドがUGCやアーティストの実演的コンテンツを重視する理由の裏付けにもなります。
こうしたデータを踏まえると、「ビジュアルの世界観づくり」と「口コミ・体験の可視化」の両立が、コスメ業界のInstagram運用における基本戦略であることが見えてきます。
明日から試せる実践チェックリスト
NARSの運用から抽出した型を、自社・自店舗のアカウントに落とし込むための具体的なステップです。
- 直近30投稿を「型」で分類する:プロダクトビジュアル/テクニック/専門家起用/キャンペーン/イベント/UGCのどれに当たるか棚分けし、偏りを確認する
- 撮影・編集のルールを1枚のドキュメントにまとめる:色調・背景・構図・フォントの使い方を明文化し、担当者が変わっても再現できる状態にする
- 「使い方」を見せる投稿を月に最低1本入れる:商品紹介だけでなく、活用シーンやテクニックを伝える投稿を計画に組み込む
- 社内の専門スタッフ・現場スタッフを「顔」として起用する:美容部員・店長・職人など、専門性を持つ人物を継続的に登場させる
- イベント・キャンペーンは「告知→開催→振り返り」を3投稿以上でセット化する:単発の告知で終わらせず、当日の様子・参加者の反応まで発信する
- ハッシュタグ・メンションでUGCを集める設計をつくる:ユーザーが投稿しやすい統一ハッシュタグを用意し、良質な投稿を定期的にリポストする
- ストーリーズ・ライブを「補助線」として使う:フィード投稿で伝えきれない使用感・臨場感をストーリーズやライブで補完する
このチェックリストは特別な予算や大規模な撮影体制を前提としていません。まずは1〜3を今週中に着手できるはずです。
まとめ
NARSのInstagram運用が支持を集めている背景には、「創業者由来のビジュアルへのこだわり」「使い方まで示す実用的な情報発信」「オンラインとオフラインの体験をつなぐ設計」という3つの要素があります。これらは資本力の大きいブランドだからこそできる特別な施策というより、投稿の型を整理し、撮影・編集のルールを明文化し、体験を一連の流れとして設計するという「地道な運用設計」の積み重ねによって成立しています。総務省の統計が示すとおり、Instagramは化粧品の主要購買層に強く浸透しているプラットフォームであり、口コミ・体験情報が購買意思決定に大きく影響するというデータも踏まえると、公式発信とUGC・体験設計を両立させる運用は、規模の大小を問わず応用可能な戦略だと言えます。
同業種・美容業界のほかの運用事例については、unyouの事例データベース(/cases)でも数多く紹介しています。自社アカウントの改善ポイントを探す際は、業種の近い事例と比較しながら、今回のチェックリストを当てはめてみてください。
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