「フォロワー数は伸びないし、投稿しても反応が薄い」「企業アカウントっぽさが抜けなくて、広告みたいに見られてしまう」——SNS担当者からよく聞く悩みです。特に旅行・観光・店舗業のように「体験」や「世界観」を売りにする業種ほど、投稿のたびに「これで合っているのか」という不安がつきまといます。予算をかけて広告を出しても、フォロー自体は増えない。逆に、何気ない1枚の写真が思いがけず伸びることもある。再現性が見えないまま手探りで運用を続けている担当者は少なくないはずです。
そんなときに参考になるのが、すでに一定の支持を得ている実在アカウントの「型」を分解してみることです。今回はJAL(日本航空)の公式Instagramアカウント(@japanairlines_jal)を題材に、なぜこのアカウントが旅行好きな層から支持を集めているのか、投稿の型・世界観のつくり方・エンゲージメント施策を分解し、業種を問わず応用できるポイントに落とし込みます。本記事はSNS運用事例データベース「unyou」(https://unyou.media)の編集部が、公開情報とWeb上の一次情報をもとにまとめたものです。フォロワー数やエンゲージメント率など裏付けの取れない数値は掲載していません。
JALのInstagram公式アカウントとは
JALの公式Instagramアカウント「日本航空(JAL)」(@japanairlines_jal)は、2015年に開設された企業公式アカウントです。運航情報やセール告知といった「お知らせ」を中心にするのではなく、風景の中を飛ぶ飛行機、機内の窓から見える景色、旅先の日常の風景など、Instagramというビジュアル中心のプラットフォームに最適化したコンテンツを継続的に発信しているのが特徴です。
JALがこのアカウントで狙っているのは、直接的な予約獲得や販促ではなく「旅情喚起」、つまり「旅行したい気持ちを刺激すること」だとされています。ターゲットも、特定の航空会社に強いこだわりを持たない、旅行そのものが好きな層です。日常的にJALのInstagramに触れてもらうことで、「プライベートで旅行するならJALに乗りたい」という態度変容を長期的に促す設計になっています。これは、フォロワーに今すぐ何かを買わせるのではなく、意思決定の瞬間に「思い出してもらう」ための布石を、日々の投稿で積み重ねる考え方だと言えます。

なぜJALのInstagram運用は支持されているのか
JALのアカウントが多くの旅行好きに好意的に受け止められている背景には、いくつかの共通点があります。
1. 「広告」に見えない投稿設計 セールや路線案内などの告知色が強い投稿を前面に出さず、風景写真や旅先の空気感を伝えるビジュアルを軸にしています。フィードを眺めているだけで、企業アカウントというより「旅行好きが集めた美しい写真集」のような印象を受けるのが特徴です。
2. 明確なゴール設定(旅情喚起) 「今すぐ予約させる」ではなく「次の休みはここに行ってみようかな、と思わせる」ことを目的に据えている点が一貫しています。ゴールが明確だからこそ、投稿する写真や動画の基準がぶれません。
3. ユーザー参加型のUGC施策 JALはフォロワーに対して、旅の思い出やお気に入りの動画を「#FlyJAL」というハッシュタグをつけて投稿するよう呼びかけています。企業が一方的に発信するのではなく、ユーザー自身の旅の記録を巻き込む設計にすることで、投稿の母数と多様性を広げ、アカウントを見る側にも「自分もここに行きたい・投稿したい」という参加意識を生み出しています。
4. 現場のリアルな視点を持つコンテンツ JALの旅行メディア「OnTrip JAL」では、客室乗務員が旅先での過ごし方やリフレッシュ方法を紹介する「CA旅STYLE」のような企画も展開されています。制服姿の「会社の顔」ではなく、旅のプロとしての客室乗務員の個人的な視点を見せることで、企業アカウント特有の距離感を縮めています。
投稿の「型」を分解する
JALのアカウントで繰り返し使われている投稿の型を整理すると、次のように分類できます。自社のアカウント設計を考えるときのチェックリストとしても使える切り口です。
| 投稿の型 | 目的 | フォーマットの特徴 |
|---|---|---|
| 風景・機窓フォト | 旅情喚起、世界観の統一 | 飛行機と自然・都市景観を組み合わせた1枚絵、統一感のある色調 |
| 旅先の日常スナップ | 「行ってみたい」の醸成 | 現地の食・人・街並みなど、観光地の定番写真ではない切り口 |
| UGC・ハッシュタグ投稿 | エンゲージメント、参加意識の醸成 | #FlyJALでユーザー投稿を収集・紹介 |
| 現場社員視点コンテンツ | 親近感、ブランドの人格化 | 客室乗務員による旅先エピソード、リール動画 |
| キャンペーン・お知らせ | 実利的な情報提供 | 頻度を絞り、世界観を壊さない範囲でのみ実施 |
ポイントは、告知系の投稿を「主役」にせず、全体の一部にとどめていることです。世界観を伝える投稿とお知らせ系の投稿の比率を意識的にコントロールすることで、フィード全体の統一感が保たれています。
世界観のつくり方:企業アカウントから「広告臭」を消す方法
多くの企業アカウントが伸び悩む理由の一つは、「伝えたいこと」を優先しすぎて、見る側の体験を後回しにしてしまうことです。JALの運用から読み取れる工夫は次の3点に整理できます。
- 主語を「会社」から「旅する人」に変える:投稿の視点を、企業からの案内ではなく、旅行者自身の目線に寄せる。
- 色調・構図のトーンを揃える:投稿ごとにバラバラな雰囲気にならないよう、色味や構図の一貫性を保つ。
- 告知は「ついで」に出す:セールや変更告知は必要だが、世界観を伝える投稿の合間に控えめに配置する。
この考え方は航空会社に限らず、飲食店、アパレル、宿泊施設など、体験や空気感を売る業種全般に応用できます。「自社の商品を紹介する」ではなく「その商品がある生活・体験を見せる」に発想を転換するだけで、投稿の見え方は大きく変わります。
エンゲージメントを生む施策:UGCとコミュニティ化
JALが実践している「#FlyJAL」のようなハッシュタグ施策は、単なる企画ではなく、フォロワーを「発信する側」に巻き込む仕組みです。エンゲージメントを高めるうえで重要なのは、以下の視点です。
- 投稿しやすいハードルを設計する:専用ハッシュタグを一つ決め、投稿のたびに周知する。
- 紹介される可能性を明示する:ユーザーの投稿がアカウントで紹介されることを伝え、参加意欲を高める。
- 多様な投稿を歓迎する:定番の観光写真だけでなく、旅先の日常的な瞬間も歓迎する姿勢を見せる。
こうした施策は、フォロワーとの関係を「見る・見られる」の一方通行から、「一緒にコンテンツを作る」双方向の関係に変える効果があります。実際、JTB総合研究所の「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査」では、旅行先を選ぶ際に自分自身のSNS投稿を重視するかを尋ねたところ、全体では重視する層は1割に満たない一方、Z世代では男女ともに1.5割を超え、ミレニアル世代でも1割を超えるという結果が出ています。若年層ほど「SNSに投稿できる旅」を意識する傾向があるとすれば、UGCを歓迎する設計は今後さらに効果を持ちやすくなると考えられます。
データで見るSNS活用の重要性
「そもそも今、Instagramに力を入れる意味はあるのか」という疑問を持つ担当者もいるでしょう。公的機関や調査機関のデータを見ると、次の傾向が確認できます。
- 総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、Instagramの利用率は全年代で52.6%、10代から30代では70%を超える水準に達しています。
- ICT総研が2025年1月に発表した「2024年度 SNS利用動向に関する調査」では、インターネット利用者に占めるInstagramの利用率は54.5%、国内のSNS利用者数は8,452万人(インターネット利用者の79.0%)にのぼるとされています。
- JTB総合研究所の調査では、若年層ほど旅行先の選定においてSNSへの投稿を意識する割合が高く、Z世代では1.5割を超える結果が出ています。
これらのデータからわかるのは、Instagramはすでに幅広い年代に浸透した情報接触の場であり、特に旅行・観光のように「体験を見せる・見たい」という欲求と相性が良い業種にとっては、無視できない接点になっているということです。JALのように「今すぐ売る」のではなく「日常的な接点を積み重ねる」設計は、こうした利用実態を踏まえた合理的な選択だと言えます。
明日から試せる実践チェックリスト
JALの事例から抽出できる要素を、自社アカウントに落とし込むためのチェックリストにまとめました。
- フィードの目的を「今すぐ販促」か「日常的な接点づくり」かで明確に言語化したか
- 投稿の主語を「会社」ではなく「利用者・お客様」に寄せられているか
- 色調・構図・トーンのルールを決め、フィード全体に一貫性を持たせているか
- 告知系の投稿と世界観系の投稿の比率を意識してコントロールしているか
- ユーザーが参加できる専用ハッシュタグを用意しているか
- ユーザー投稿を紹介する仕組み(リポスト・ストーリーズ紹介など)を運用しているか
- 現場スタッフなど「人」が見える投稿を定期的に組み込んでいるか
- 投稿頻度・トーンを1〜2週間単位で振り返り、微調整する運用サイクルがあるか
一度にすべてを実装する必要はありません。まずは「投稿の主語を変える」「専用ハッシュタグを一つ決める」など、着手しやすい項目から試してみることをおすすめします。
中小企業・店舗が応用する際の注意点
JALのような大企業と同じ予算や撮影体制を持たない企業や店舗が、この事例からそのまま学べない部分もあります。重要なのは、施策そのものをコピーすることではなく、考え方を自社の規模に合わせて翻訳することです。
例えば、プロの撮影が難しい店舗であれば、スタッフのスマートフォン撮影でも「主語を利用者に寄せる」「色調を揃える」という工夫だけで統一感は出せます。UGC施策も、大規模なキャンペーンでなくても、来店客に「〇〇(店名)」のタグ付けを促すだけで小さく始められます。規模の大小にかかわらず、「何を見せたら見る人の生活や体験がイメージできるか」を起点に投稿を設計する姿勢そのものが、JALの運用から学べる本質的なポイントです。
同じ旅行・観光業界や、体験を軸にした他業種のSNS運用事例をより詳しく知りたい方は、unyouの事例データベース(/cases)で、業種別の運用事例を確認してみてください。実際にどのような投稿頻度・企画・体制で運用されているか、具体的な事例を横断的に比較できます。
まとめ
JALのInstagram運用が支持されている背景には、「広告に見えない世界観づくり」「旅情喚起という明確なゴール設定」「UGCを巻き込むコミュニティ化」「現場社員の視点を活かした親近感の醸成」という、業種を問わず応用できる考え方があります。フォロワー数やエンゲージメント率そのものを真似ることはできなくても、投稿の主語を変える、告知と世界観投稿の比率を見直す、専用ハッシュタグでユーザーを巻き込むといった具体的な手法は、規模の大小を問わず今日から着手できるはずです。まずはチェックリストの中から一つ、自社アカウントに取り入れてみてください。
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