デザインツール企業のInstagramが「かたい」と諦めていませんか
「うちはBtoBのIT企業だから、Instagramで映える写真なんて撮れない」「サービスがソフトウェアだから、投稿するネタがすぐ尽きる」——SNS担当者からよく聞く悩みです。とくにSaaSやツール系の企業では、店舗や飲食のような「絵になる商品」がないぶん、Instagram運用を後回しにしてしまいがちです。実際には、コード1行も画面に映らない業種でも、世界中のデザイナー・PM・マーケターに支持されているアカウントがあります。デザイン・プロトタイピングツールを提供するFigmaのInstagramです。
Figmaは2025年7月に提出したIPO用のS-1文書で、月間アクティブユーザーが1,300万人を超え、そのうち約3分の2は「デザイナーではない」利用者であることを明らかにしています(Figma S-1文書、2025年7月開示)。つまりFigmaは「専門家だけのニッチなツール」ではなく、PM・マーケター・学生・起業家まで含む幅広い層に使われているプロダクトです。この記事では、公開情報とWeb上の事例をもとにFigmaのInstagram運用を分解し、業種を問わず応用できるポイントに落とし込みます。フォロワー数やエンゲージメント率など裏付けの取れない数字は扱わず、投稿の型・世界観のつくり方・エンゲージメント施策という「構造」にフォーカスします。

Figmaというブランドの前提を押さえる
分析に入る前に、Figmaがどんな会社かを整理しておきます。Figmaはブラウザ上で動くUI/UXデザインツールとして2016年に一般公開され、その後ホワイトボードツール「FigJam」なども展開し、複数人が同時に編集できるコラボレーション機能を強みにしてきました。2025年のS-1文書では、Fortune 500企業の95%がFigmaを利用していることも開示されています(同S-1文書)。
ここで重要なのは、Figmaの顧客層が「デザイナー」という一職種に閉じていない点です。プロダクトマネージャー、エンジニア、マーケター、経営者まで日常的にFigmaのファイルを開いて意見を出し合っています。この「専門職向けツールでありながら、関わる人は非専門家のほうが多い」という構造が、Instagram運用の設計にも直結しています。専門用語を並べたマニアックな投稿だけでは支持は広がらず、デザインに詳しくない人でも「なるほど」「かわいい」「使ってみたい」と感じられる投稿が必要になるのです。この構図は、専門的なBtoBサービスやニッチな業種の企業がInstagramを運用するときにも、そのまま参考になります。
なぜ「地味になりがち」なIT企業のアカウントが支持されるのか
ソフトウェア企業のSNSが埋没しやすい理由は明快で、投稿素材が「スクリーンショット」に偏りがちだからです。Figmaのアカウントが支持される背景には、次のような工夫があると考えられます。
第一に、プロダクトそのものよりも「プロダクトを使う人・コミュニティ」を主役にしている点です。Figmaは公式サイトの「Figma Community」で、世界中のデザイナーが作成したテンプレートやプラグインを無償公開できる仕組みを持っており、こうしたコミュニティの創作物やイベント(年次カンファレンス「Config」など)の様子を紹介することで、企業アカウントでありながら「人が主役」の投稿を作りやすくなっています。
第二に、ブランドカラーを一貫させることで、スクリーンショット主体でも世界観が破綻しないようにしている点です。Figmaはロゴにも使われている複数色を組み合わせたグラデーション・カラーパレットを持ち、プロダクトのUIそのものがすでに「彩度の高いブランドカラー」で構成されています。結果として、機能紹介の投稿であってもフィード全体のトーンが統一されやすい、という副産物が生まれます。
第三に、「デザイナーではない人にも伝わる翻訳」を意識した見せ方です。前述の通り利用者の約3分の2はデザイナーではないため、専門用語をそのまま解説するのではなく、誰でも理解できるビジュアルの比喩や短い動画で機能を説明する投稿が中心になりやすい構造があります。
Figmaの投稿を4つの型に分解する
Web上で確認できる公開情報や業界メディアの分析をもとに、Figmaのようなプロダクト系企業がとりがちな投稿パターンを整理すると、大きく4つの型に集約できます。これはFigma固有の型というより、SaaS・ツール系企業がInstagramで機能させやすい「型」として一般化できるものです。
| 投稿の型 | 目的 | 具体的な中身の例 |
|---|---|---|
| プロダクト機能紹介型 | 新機能・アップデートの認知 | 新機能の操作画面を短尺動画やカルーセルで見せる |
| コミュニティ・UGC紹介型 | ユーザーとの一体感・信頼醸成 | ユーザーが作成したテンプレートやデザイン作品を紹介 |
| イベント・カンファレンス型 | ブランドの熱量・世界観の発信 | カンファレンスの舞台裏、登壇者、会場装飾の紹介 |
| カルチャー・人物紹介型 | 採用ブランディング・親近感 | 社員インタビュー、オフィスの雰囲気、働き方の紹介 |
この4つの型が組み合わさることで、「毎回プロダクト紹介ばかりで飽きられる」状態を避けつつ、「毎回オフィス紹介ばかりで何をしている会社か分からない」状態も避けられます。とくに②のコミュニティ・UGC紹介型は、自社で撮影・制作するコストをかけずに投稿ネタを確保できる点で、リソースが限られる中小企業にも応用しやすい発想です。
世界観のつくり方:色とトーンで「誰の投稿か」を一瞬で分からせる
Instagramのフィードは一覧表示されるため、1枚1枚の完成度よりも「並んだときの統一感」が第一印象を左右します。Figmaのように製品自体に鮮やかなブランドカラーが組み込まれている場合、スクリーンショットをそのまま使っても世界観が保たれやすいという利点があります。一方、色に強い個性がない業種でも、次の3点を決めておくだけで統一感は作れます。
- メインカラーとサブカラーを2〜3色に絞る
- フォント・文字の入れ方(太さ・配置・余白)のルールを固定する
- 写真・イラスト・スクリーンショットの比率をあらかじめ決めておく
世界観は「センス」の問題ではなく「ルールの一貫性」の問題です。Figma自身がデザインツールを提供する会社であるため、こうしたルールをFigma上でテンプレート化し、誰が投稿を作っても崩れない仕組みを持ちやすいという構造的な強みがあります。逆に言えば、Canvaやパワーポイントであっても、テンプレートさえ用意すれば同じ効果は再現可能です。
エンゲージメントを生む仕掛け:一方通行にしない設計
企業アカウントが陥りやすい失敗は、「発信すること」がゴールになり、フォロワーとの双方向のやり取りが生まれない投稿ばかりになることです。Figmaのようなコミュニティドリブンなプロダクトの場合、次のような設計が機能しやすいと考えられます。
- ユーザーの作品を紹介する枠を定例化する — 毎週・毎月など頻度を決めて紹介することで、紹介されたい側からのタグ付け・シェアが自然発生する
- コメント欄で質問を投げる — 「あなたならどう使う?」のような開かれた質問で、コメントのハードルを下げる
- 保存したくなる「まとめ」型投稿を混ぜる — ショートカット集やテンプレート集など、後で見返す価値がある投稿は保存率が上がりやすい
- カンファレンスやリリースのタイミングに合わせて集中投稿する — 話題性がある期間はストーリーズも含めて投稿密度を上げる
これらはいずれも「フォロワー数を追う」施策ではなく、「フォロワーとの接触の質」を上げる施策である点が共通しています。総務省が公表した「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によれば、Instagramの全年代の利用率は52.6%に達し、とくに10代〜30代では70%を超える水準になっています(総務省「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」)。若手のPM・デザイナー・学生が主要な情報収集チャネルとしてInstagramを日常的に使っている以上、BtoBのツール企業であっても採用ブランディングや業界内での認知獲得にInstagramが機能する土壌は十分にあるといえます。
日本の企業・店舗が明日から応用できるチェックリスト
Figmaの事例から抽出できる要素を、自社アカウントにそのまま当てはめられるチェックリストに落とし込みます。業種がまったく違っても、「主役を製品からコミュニティ・人に変える」という考え方は横展開が可能です。
- 直近30投稿を見返し、「製品・サービスの説明」だけの投稿が何割を占めているか数えたか
- お客様・利用者を主役にした投稿(声・作品・活用事例の紹介)を月1本以上入れているか
- メインカラー・サブカラーを2〜3色に固定し、投稿テンプレートを作ったか
- コメントを誘発する「問いかけ」を含む投稿を月1本以上入れているか
- 保存されやすい「まとめ・チェックリスト」型の投稿を用意しているか
- 展示会・登壇・自社イベントなど「熱量が上がる瞬間」に投稿を集中させる運用カレンダーがあるか
- 採用候補者が見ることを意識した、社内カルチャーが伝わる投稿を月1本以上入れているか
これらは特別な予算や専門チームがなくても、既存の運用体制の中で見直せる項目です。まずは「直近30投稿の棚卸し」から着手すると、自社アカウントの偏りが可視化されます。
Instagram運用を検討する前に押さえておきたい市場データ
自社の業種でInstagramに投資する価値があるかを判断する材料として、公開されている統計を整理しておきます。
| 出典 | データ内容 |
|---|---|
| 総務省「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 | Instagramの全年代利用率は52.6%、10代〜30代では70%を超える |
| Meta公式発表(About Meta、2019年6月) | 日本国内のInstagram月間アクティブアカウント数が3,300万を突破(2019年3月時点) |
| Figma S-1文書(2025年7月開示) | 月間アクティブユーザー1,300万人超のうち約3分の2がデザイナー以外の職種 |
これらのデータから読み取れるのは、Instagramがすでに「若年層向けの写真アプリ」の枠を超え、幅広い年代・職種の情報収集チャネルになっているという点です。同時にFigmaの事例が示すように、専門性の高いプロダクトであっても、利用者の大多数は「その分野の専門家ではない」ケースが少なくありません。自社の顧客・採用ターゲットの中に「専門家ではないが関心がある層」がどれだけいるかを考えることが、Instagram運用に投資すべきかどうかの判断材料になります。
Figmaの事例から見える、業種を超えた共通原則
ここまでの分析を振り返ると、Figmaの運用から抽出できる原則は次の3つに集約されます。
- 製品ではなく「製品が生み出す成果物・コミュニティ」を見せる — スクリーンショットの羅列ではなく、そこから生まれた作品や人の物語を主役にする
- 専門用語の翻訳を怠らない — 利用者の多数派は必ずしも専門家ではないという前提に立ち、誰にでも伝わる見せ方を選ぶ
- 色とトーンのルールで「素材の地味さ」を補う — 華やかな被写体がなくても、ブランドカラーの一貫性で世界観は作れる
これらはIT・SaaS業界に限らず、製造業・専門商社・士業など「絵になりにくい」と思われがちな業種すべてに応用可能な考え方です。重要なのは、Figmaというブランドの知名度を真似ることではなく、この「型」と「原則」を自社の文脈に翻訳して適用することです。
まとめ
Figmaのインスタグラム運用を分析すると、派手な演出やバズを狙うテクニックではなく、「製品の主役を人・コミュニティに置き換える」「専門用語を翻訳する」「色とトーンの一貫性で世界観を保つ」という、地味だが再現性の高い原則が土台にあることが見えてきます。BtoBやIT・ツール系の企業ほど「投稿ネタがない」と感じやすいものですが、それは多くの場合、製品そのものを主役にしすぎていることが原因です。まずは直近の投稿を棚卸しし、本記事のチェックリストに沿って「誰を主役にした投稿か」を見直すところから始めてみてください。
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