「Instagramを頑張っているのに、フォロワーが伸びない」「投稿はしているけれど、世界観がバラバラで統一感が出ない」——化粧品ブランドや美容関連のアカウント運用を担当していると、こうした悩みにぶつかる場面は少なくありません。特に競合が多いコスメ業界では、ただ商品写真を並べるだけでは埋もれてしまい、フォロワーとの継続的な関係づくりに苦戦しているご担当者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、資生堂グループのスキンケアブランド「IPSA(イプサ)」のInstagram運用を、公開されている情報をもとに分析します。IPSAはカウンセリング化粧品というポジションを軸に、公式アカウントと美容部員個人のアカウントを組み合わせた運用を続けており、その設計思想には他業種・他店舗のSNS担当者が応用できるヒントが数多く含まれています。本記事では、IPSAの投稿の「型」や世界観のつくり方、エンゲージメント施策を分解し、明日から実践できる具体的なポイントに落とし込みます。なお、フォロワー数やエンゲージメント率など裏付けの取れない数値は本記事には記載していません。
IPSA(イプサ)というブランドとInstagram運用の全体像
IPSAは「自ら」を意味するラテン語を由来とし、独自の測定機器「イプサライザー」による肌測定と、レシピストと呼ばれる美容部員によるカウンセリングを通じて、一人ひとりに合わせたお手入れ方法=「レシピ」を提案するカウンセリング化粧品ブランドです(出典:IPSA公式サイト)。店頭でのパーソナルなカウンセリングを強みとする一方で、Instagramでは公式アカウント「IPSA Japan | イプサ(@ipsa_jp)」を中心に、新商品情報やスキンケアの考え方、キャンペーン情報などを発信しています。
このブランドコンセプトがそのままSNS運用にも反映されている点がIPSAの特徴です。「万人向けの正解」を押し付けるのではなく、「あなたに合った方法を一緒に見つける」という姿勢が、投稿の切り口やコメントへの向き合い方にも一貫して表れています。SNS運用を検討する際、まず自社の「店頭での強み」や「接客の思想」をInstagramにどう翻訳するかを考えることが、IPSAの事例から学べる最初のポイントです。

なぜ化粧品ブランドにとってInstagram運用が重要なのか
IPSAの取り組みを見る前に、そもそもなぜ化粧品業界においてInstagram運用がこれほど重視されているのかを、公開データで確認しておきます。
まず、総務省「令和7年版 情報通信白書」では、SNSの利用が全世代で拡大していることが示されており、LINEの個人利用率は2014年の55.1%から2024年には94.9%まで上昇、60代の利用率も2014年の11.3%から2024年には91.1%まで伸びています。SNSがもはや若年層だけのツールではなく、幅広い年代の生活インフラになっていることがわかります。
また、Meta(旧Facebook)は2019年6月、日本国内のInstagram月間アクティブアカウント数が(2019年3月時点で)3,300万を突破したと公式発表しました(出典:Metaについて公式ニュースルーム「Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3300万を突破」)。国内における主要な情報接点として、早い段階から位置づけられていたことがうかがえます。
さらに、Glossom株式会社が全国10〜70代の男女2,464名を対象に実施した「ソーシャルコマースに関する定点調査2022」では、商品購入の後押しになる情報源として「店頭」が29.9%で1位、「口コミ・まとめ・比較サイト」が27.0%で2位となった一方、「化粧品」「美容」といったカテゴリーではSNSの影響度が特に大きいという特徴が報告されています(出典:Glossom株式会社「ソーシャルコマースに関する定点調査2022」、MarkeZine掲載)。IPSAが強みとする「店頭カウンセリング」とSNSでの情報発信を両輪で運用している背景には、こうした購買行動の実態があると考えられます。
IPSAのInstagram運用を支える「二層構造」
IPSAのInstagram運用を分析すると、大きく2つのレイヤーで構成されていることがわかります。
1つ目は、ブランド公式アカウント(@ipsa_jp)です。新商品の発売情報、キャンペーン告知、ブランドの世界観を伝えるビジュアル投稿、Instagramライブの告知などを担っています。
2つ目は、レシピスト(美容部員)個人によるアカウントです。公開情報を確認すると、「akane」「arisa」といったレシピストが個人名義のアカウントを運用し、スキンケアの基本やメイクのコツ、自身の接客経験に基づくアドバイスなどを発信しています。arisaのアカウントでは12年間の美容部員経験を活かした、乾燥や毛穴の悩みに寄り添う投稿が見られ、akaneのアカウントでは1分以内でできる時短スキンケア・メイクの提案が特徴的です。
この二層構造の利点は、公式アカウントが担う「ブランドとしての信頼感・世界観」と、個人アカウントが担う「等身大の専門家としての親近感」を分業できる点にあります。企業アカウント単体では発信しづらい「本音の使用感」や「日常の中でのちょっとしたコツ」を、現場の人材の声として届けられるため、フォロワーとの心理的な距離が縮まりやすくなります。
投稿コンテンツの「型」を分解する
IPSA関連アカウントの投稿を整理すると、いくつかの型に分類できます。それぞれの型が担う役割を理解することで、自社アカウントの投稿設計にも応用できます。
| 投稿の型 | 主な内容 | 期待される役割 |
|---|---|---|
| 新商品・ブランド訴求 | 新商品の発売告知、成分やコンセプトの紹介 | ブランド認知・世界観の浸透 |
| レシピスト発信のHow to | スキンケア手順、メイクのコツ、悩み別アドバイス | 専門性の証明・親近感の醸成 |
| Instagramライブ | 新商品説明、質疑応答、限定特典の案内 | 双方向コミュニケーション・購買後押し |
| オンラインレッスン告知 | 化粧直し講座など体験型コンテンツの案内 | 継続的な関係構築・来店誘導 |
| カウンセリング導線 | 肌測定・レシピ提案の紹介、店舗誘導 | オンラインからオフラインへの送客 |
この表からわかるのは、IPSAが「商品を売る投稿」と「信頼を積み上げる投稿」を意図的に使い分けているという点です。新商品訴求ばかりを続けると広告色が強くなりフォロワーが離れやすくなりますが、レシピストによるHow to投稿やライブ配信を挟むことで、「役に立つ・話を聞きたくなるアカウント」としての立ち位置を維持しています。
世界観に一貫性を生む「レシピ」というブランドコンセプト
IPSAのSNS運用で見逃せないのが、「レシピ」というコンセプトが投稿の隅々まで一貫している点です。ブランド名の由来である「自ら」という思想に基づき、「万人に共通の正解」ではなく「あなただけのお手入れ方法」を提案するというメッセージが、商品紹介にもレシピスト個人の発信にも通底しています。
これは単なるキャッチコピーではなく、投稿の語り口にも反映されています。「このアイテムがすべての人におすすめ」という断定的な表現ではなく、「肌質や悩みに合わせて選び方を一緒に考える」というスタンスのコンテンツが多く見られる点は、カウンセリングブランドとしての姿勢がそのままSNS上のコミュニケーション設計に落とし込まれている好例といえます。
自社アカウントの世界観づくりに悩んでいる場合、まず「自社が店頭・接客で大切にしている思想は何か」を言語化し、それを投稿の語尾やトーン、コメント返信の姿勢にまで一貫して反映させることが、IPSAの事例から得られる重要な示唆です。ビジュアルのトンマナを揃えるだけでなく、「言葉づかいの一貫性」まで踏み込むことがブランドらしさの醸成につながります。
エンゲージメントを高める施策|ライブ配信・オンラインレッスン・カウンセリング導線
IPSAはフィード投稿だけでなく、複数の施策を組み合わせてフォロワーとの接点を増やしています。
Instagramライブでは、レシピストが新商品や限定キットを紹介し、視聴者限定の特典を用意するなど、「見るだけでお得がある」設計にしている点が特徴です。単なる商品説明にとどめず、視聴のインセンティブを明確にすることで、ライブ配信への参加ハードルを下げています。
また、期間限定のオンラインレッスン(例:日中の化粧直しレッスン)を実施し、レシピストと一緒に実践しながら学べる体験型コンテンツを提供しています。こうした企画は、フォロワーを「見る人」から「参加する人」へと引き上げる効果があり、単発の投稿よりも記憶に残りやすくなります。
さらに重要なのが、店舗でのカウンセリングやイプサライザーによる肌測定という「オフラインの強み」への導線です。SNS上で完結させるのではなく、興味を持ったフォロワーを最終的に店頭体験へとつなげる設計になっている点は、EC完結型のブランドとは異なるIPSAならではの特徴であり、実店舗を持つ企業・店舗にとって参考になる部分です。
他社・他店舗が明日から真似できる実践ポイント【チェックリスト】
IPSAの運用を分解すると、業種を問わず応用できるポイントが見えてきます。自社アカウントの運用を見直す際のチェックリストとして活用してください。
- 自社が店頭・接客で大切にしている思想やスタンスを一文で言語化できているか
- 「商品訴求投稿」と「役立つ情報・現場の声を伝える投稿」を意図的に使い分けているか
- 公式アカウントとは別に、スタッフ・現場担当者の個人的な発信を持つ余地がないか検討したか
- ライブ配信やオンライン企画を行う際、「参加する理由(特典・限定性)」を明確にしているか
- SNS上の興味・関心を、来店やカウンセリング、問い合わせなど次のアクションへつなげる導線を用意しているか
- 投稿の語り口・言葉づかいが、ビジュアルのトンマナと同じくらい一貫しているか
- 「万人向けの正解」を断定する表現ではなく、フォロワー個々の状況に寄り添う表現を意識しているか
特に、公式アカウントとスタッフ個人の発信を組み合わせる二層構造は、美容室・エステサロン・アパレル店舗など、接客を伴う業種であれば規模を問わず取り入れやすい施策です。まずは1名のスタッフからでも「現場の専門性を伝える個人発信」を試してみることをおすすめします。
IPSAの事例から学ぶ、注意しておきたい視点
IPSAの運用を参考にする際に注意したいのは、この設計が一朝一夕で作られたものではなく、店頭カウンセリングという既存の強みをSNS上に翻訳する形で積み上げられてきたという点です。表面的な投稿の型だけを真似しても、背景にあるブランドの思想やスタッフの専門性が伴っていなければ、フォロワーからの共感は得にくくなります。
また、化粧品は薬機法・景品表示法の規制対象となる商材です。効果効能を断定するような表現や、誇大な表現を避け、事実に基づいた発信を続けることは、業界を問わず信頼獲得の前提条件になります。自社での発信内容を検討する際も、法令順守を大前提とした上で、継続可能な体制を組むことが重要です。
まとめ
IPSAのInstagram運用は、「カウンセリングブランド」という自社の強みを、公式アカウントとレシピスト個人アカウントの二層構造、投稿の型の使い分け、ライブ配信やオンラインレッスンといった参加型施策、そして店頭への導線設計にまで一貫して落とし込んでいる点に特徴があります。フォロワー数やエンゲージメント率といった数値を追う前に、「自社の強みをどう言語化し、どう発信の型に落とし込むか」を整理することが、SNS運用を伸ばす土台になります。
本記事で紹介したチェックリストを参考に、まずは自社の強みの言語化と、投稿の型の整理から着手してみてください。unyouでは美容・コスメ業界をはじめ、さまざまな業種のSNS運用事例を紹介しています。同業種の他社がどのようにアカウントを設計しているか気になる方は、事例データベースもあわせてご覧ください。
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