BtoB企業の「インスタ、うちには向いていないのでは」という悩み
「Instagramはコスメやアパレルなど、toC向けの映える商材でないと成果が出ないのでは」——法人向けに機械やソリューションを提供する企業のSNS担当者から、こうした相談を受けることは少なくありません。製品を写真1枚で魅力的に見せるのが難しく、投稿ネタも「展示会出展報告」や「プレスリリース転載」に偏りがちで、フォロワーとの距離が縮まらないまま更新が止まってしまう——多くのBtoB企業が同じ壁にぶつかっています。
そんな中で参考になるのが、総合電機・インフラ大手である日立製作所(Hitachi)のInstagram運用です。日立は単一の「企業アカウント」だけでなく、グループ全体で目的別に複数のアカウントを使い分け、それぞれが異なる役割を果たす体制を公式に構築しています。本記事では、公開情報をもとに日立のInstagram運用を分解し、フォロワー数やエンゲージメント率といった未確証の数字には触れずに、「なぜこの運用が機能しているのか」「他のBtoB企業や店舗アカウントが明日から応用できるポイントは何か」を整理します。

Hitachiのアカウント構成を分解する:単体ではなく「群」で設計されている
日立のInstagram運用を理解するうえでまず押さえておきたいのが、日立製作所のコーポレートサイト上で公開されている「公式アカウント一覧」です。ここには、日立製作所本体のグローバル本社アカウントに加えて、日立ハイテク、日立ハイテク採用アカウント、日立ソリューションズ SX情報局、日立ソリューションズ採用担当、日立の家電品、さらには日立情報通信エンジニアリング バドミントン部、日立女子陸上競技部、日立ソリューションズサッカー部、日立ビルシステムサッカー部といった、事業会社やスポーツ部単位のアカウントまで複数掲載されています(出典:日立製作所「公式アカウント一覧(日立グループ)」)。
つまり日立は、「1つのアカウントで全方位に発信する」のではなく、発信目的とターゲットごとにアカウントを分けて運用する設計を取っているのが特徴です。これは多くのBtoB企業が陥りがちな「誰に向けた投稿か分からないアカウント」という状態を、構造そのもので回避する仕組みだといえます。
なぜ日立のInstagram運用は支持されているのか:3つの理由
公開されているアカウント構成や発信テーマから、支持される理由を大きく3つに整理できます。
1. 発信目的が明確に分離されている 採用に関心がある学生は「日立ハイテク採用アカウント」を、サステナビリティに関心があるビジネスパーソンは「日立ソリューションズ SX情報局」を、家電製品の情報が欲しい生活者は「日立の家電品」をフォローすればよく、閲覧者は自分の関心に合ったアカウントにたどり着きやすくなっています。BtoB企業のSNSが伸び悩む典型的な原因の一つは、「製品情報」「採用情報」「社会貢献活動」を1つのアカウントに詰め込み、結果としてどの層にも刺さらなくなることです。日立はこれを組織設計レベルで回避しています。
2. 「企業イメージの再定義」を発信テーマに据えている 日立は重電・インフラ企業というイメージが強い一方で、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)情報局のような発信を通じて、社会課題解決に取り組む企業としての側面を前面に出しています。BtoB企業は製品や技術そのものだけでなく、「なぜその事業をしているのか」という社会的な文脈を発信することで、フォロワーとの関係を深めやすくなります。
3. スポーツ・部活動アカウントによる「人格化」 バドミントン部や陸上競技部、サッカー部といったアカウントは、企業の硬いイメージを和らげ、選手や社員という「顔の見える存在」を通じて親近感を生む役割を果たしています。これはBtoB企業が苦手とする「共感」を獲得する手段として非常に参考になる設計です。
投稿の「型」を分解する:BtoB企業が転用しやすい要素
日立グループ全体の発信テーマを整理すると、BtoB企業が転用しやすい投稿の「型」が見えてきます。
- 企業活動・社会貢献系:サステナビリティへの取り組みや社会課題解決の事例を紹介する投稿
- 製品・技術紹介系:事業会社ごとの製品や技術を、専門用語をかみ砕いて紹介する投稿
- 採用・社員紹介系:社員インタビューや働く環境の紹介など、求職者に向けた投稿
- 部活動・CSR系:スポーツ部の活動報告など、企業の「人となり」を伝える投稿
重要なのは、これらを1つのアカウントに混在させるのではなく、テーマごとに情報を整理し、閲覧者が「このアカウントは何を発信しているか」を一目で理解できる状態を保っている点です。単一アカウントしか持てない中小企業やひとり運用の店舗であっても、ハイライト機能やプロフィール文を使ってテーマを整理することで、同じ考え方を応用できます。
世界観のつくり方:BtoBらしさを消さずに親しみを足す
日立の発信を見ていくと、「企業としての信頼性」と「親しみやすさ」を両立させる工夫が随所に見られます。SX情報局のような専門性の高いアカウントでは情報の正確性やビジネスパーソン向けのトーンを保ちつつ、スポーツ部や家電品アカウントでは、より生活者目線のカジュアルな発信を行うというように、アカウントごとにトーン&マナーを明確に切り替えていることが読み取れます。
BtoB企業が「うちは堅い業界だからSNSに向いていない」と考えてしまう背景には、「1つのアカウントで硬軟両方を表現しなければならない」という思い込みがあるケースが少なくありません。日立のように発信領域ごとにアカウントやトーンを分ける、あるいは単一アカウント内でもハイライトやストーリーズを使って「専門情報コーナー」と「社内の雰囲気が伝わるコーナー」を分けるだけでも、世界観の一貫性を保ちながら親しみやすさを加えることができます。
なぜ今、BtoB企業がInstagramに取り組む価値があるのか(公開データで確認する)
「そもそもInstagramはBtoBに合っているのか」を判断するために、公開されている統計データを確認しておきましょう。
まず、国内のSNS利用状況について、総務省情報通信政策研究所が実施した「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」では、全年代におけるInstagramの利用率が5割を超える水準まで拡大していることが示されています(出典:総務省情報通信政策研究所「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」)。もはやInstagramは10〜20代だけのプラットフォームではなく、ビジネスパーソン層を含む幅広い年代に利用が浸透していることがわかります。
次に、Meta社(Instagram運営元)は公式発表として、日本国内の月間アクティブアカウント数が3,300万を突破したことを公表しています(出典:Meta Japan公式発表、2019年6月)。これは同社が公表した数少ない国内MAUの公式数値であり、現在はさらに利用者が拡大しているとみられますが、確証のある最新公式数値が存在しないため、本記事ではこの公表値を参考情報として扱います。
さらに、BtoB企業のSNS活用実態については、PR TIMESに掲載された比較ビズによる調査リリースで、BtoB企業の93.4%が「企業のSNS活用が必要だと思う」と回答し、活用ツールの上位にX、YouTubeと並んでInstagramが挙げられていることが報告されています(出典:PR TIMES掲載「比較ビズ」BtoB企業のSNS活用実態調査)。BtoB企業においても、Instagramはすでに主要な情報発信チャネルの一つとして認識されていることがうかがえます。
Hitachiグループのアカウント構成と役割(早見表)
公開情報をもとに、日立グループのInstagramアカウント構成と役割を整理すると、次のようになります。
| アカウント系統 | 主な発信テーマ | 想定されるフォロワー層 |
|---|---|---|
| 日立製作所(グローバル本社) | 社会イノベーション、企業全体のブランディング | メディア、投資家、グローバルな読者 |
| 日立ハイテク/採用アカウント | 製品・技術紹介、採用・社員紹介 | 取引先企業、就活生 |
| 日立ソリューションズ SX情報局 | サステナビリティ・トランスフォーメーション関連情報 | ビジネスパーソン、サステナビリティ担当者 |
| 日立ソリューションズ 採用担当 | 採用情報、社風紹介 | 就活生 |
| 日立の家電品 | 家電製品の紹介 | 一般消費者 |
| 各グループ会社のスポーツ部(バドミントン部・陸上競技部・サッカー部 等) | 部活動・選手の活動報告 | ファン、地域住民、社員家族 |
(出典:日立製作所「公式アカウント一覧(日立グループ)」公開情報をもとに編集部作成)
この表からもわかる通り、日立はアカウントごとに「誰に」「何を」届けるかを明確に切り分けています。中小規模の企業であっても、複数アカウントを持てないのであれば、プロフィール文・ハイライト・投稿カテゴリをこの考え方で整理するだけで、同様の効果を狙えます。
明日から試せる、応用のためのチェックリスト
日立の事例から抽出できる考え方を、自社アカウントですぐに試せる手順に落とし込みました。
- 自社アカウントの「一番届けたい相手」を1人だけ言語化する(採用候補者か、既存顧客か、見込み顧客か)
- プロフィール文に、そのアカウントが「何を発信するアカウントか」を1文で明記する
- 直近の投稿10件を見直し、テーマが3カテゴリ以内に収まっているか確認する
- ハイライトを「製品・サービス」「社員・カルチャー」「お知らせ」など目的別に整理する
- 製品や技術の紹介投稿には、必ず「なぜその技術が社会に必要か」という文脈を一文添える
- 月1回は「社員が写っている」「人の顔が見える」投稿を入れる
- 展示会やプレスリリースの転載だけで終わらせず、裏側のエピソードを添えて再編集する
- 複数事業・複数部署がある場合、将来的にアカウントを分ける必要があるか、半年に一度検討する
いきなり全てを実行する必要はありません。まずは「発信テーマの整理」と「プロフィール文の見直し」という、コストのかからない2点から着手するのがおすすめです。
BtoB企業がInstagramで陥りやすい失敗と対策
最後に、BtoB企業がInstagram運用でつまずきやすいポイントと、日立の事例から得られる対策を整理します。
第一に、「発信テーマが広がりすぎる」失敗です。製品紹介、採用情報、社会貢献活動を同じトーンで投稿し続けると、フォロワーは自分に関係のある投稿を探しにくくなります。対策は、日立のようにテーマごとにアカウントやハイライトを分け、閲覧者が迷わない導線を作ることです。
第二に、「専門用語だけで終わる」失敗です。BtoB企業は製品の技術的な優位性を語りたくなりますが、Instagramというプラットフォームの特性上、専門用語の羅列だけでは離脱されやすくなります。技術情報と合わせて、それが社会や顧客にとってどんな意味を持つのかという文脈を添えることが重要です。
第三に、「人が見えない」失敗です。企業ロゴや製品写真だけの投稿が続くと、フォロワーとの心理的な距離は縮まりません。日立のスポーツ部アカウントのように、社員や関係者の顔が見えるコンテンツを定期的に挟むことで、企業への親近感を高めることができます。
こうした失敗は業種を問わず共通して見られます。自社と近い業種の企業がどのようにSNSを運用し、どんな工夫でこれらの失敗を回避しているかを知りたい場合は、unyouのSNS運用事例データベース(https://unyou.media/cases)で同業種・類似業態の実例を確認してみることをおすすめします。
まとめ
日立のInstagram運用の強みは、派手な演出やバイラル狙いの投稿ではなく、「誰に」「何を」届けるかを組織設計レベルで整理している点にあります。グローバル本社アカウントで企業全体のブランディングを担い、事業会社ごとのアカウントで製品・採用情報を届け、スポーツ部アカウントで企業の人間味を伝える——この役割分担の明確さこそが、BtoB企業がInstagramで参考にすべき最大のポイントです。
自社に置き換える際は、複数アカウントを持てなくても構いません。まずはプロフィール文とハイライトでテーマを整理し、投稿カテゴリを絞り込むところから始めてみてください。小さな整理の積み重ねが、フォロワーにとって「このアカウントは自分に関係がある」と感じてもらえるきっかけになります。
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