「毎日投稿しているのに、フォロワーが増えない」「何を投稿すれば“ウチらしさ”が伝わるのか分からない」——SNS担当者から、こうした声を聞くことは少なくありません。特に旅行・観光・交通業界は、写真映えする素材には恵まれている一方で、「きれいな景色を撮って終わり」の投稿になりがちで、フォロワーとの継続的な関係づくりまで手が回っていないケースが多く見られます。
そこで参考になるのが、ANA(全日本空輸)の公式Instagramです。航空会社という業種柄、機体や空港、機内サービスといった“絵になる”題材を豊富に持ちながらも、ANAはそれだけに頼らない運用へと舵を切り、支持を広げてきました。本記事では、公開されている報道・インタビュー記事をもとに、ANAのInstagram運用がなぜ評価されているのかを分解し、他業種の企業・店舗アカウントでも応用できるポイントに落とし込みます。
ANA公式Instagramの基本情報とポジショニング
ANAは2015年3月にInstagramの公式アカウントを開設しています(日経クロストレンド報道より)。開設当初は、機体や上空からの景色といった「静止画」を中心とした、いわゆる"航空会社らしい"世界観の投稿が主体でした。美しい機体写真や雲海の写真は確かに見栄えがしますが、こうした投稿だけでは「きれいだけど自分ごと化しにくい」という壁にぶつかりやすいのも事実です。
ANAのSNS運用における特徴は、単一のアカウントで全てを完結させるのではなく、SNSごとに役割を明確に分けている点にあります。報道によれば、Instagramは主に「認知度の向上」を担い、広報的な発信はFacebook、リアルタイム性の高い情報発信はX(旧Twitter)が担うというように、プラットフォームごとの得意分野に応じて使い分けがなされています(シンタイリク「どのSNSに注力するのか?ANAに学ぶSNSメディアの使い分け」より)。この「1つのアカウントに全部の役割を背負わせない」という発想は、リソースが限られる中小企業やローカル店舗のSNS運用においても非常に参考になる考え方です。

なぜANAのInstagramは支持されているのか——2022年の戦略転換に学ぶ
ANAのInstagram運用を語るうえで欠かせないのが、2022年4月に行われた投稿戦略の大転換です。日経クロストレンドの報道によると、それまで機体や景色などの静止画を中心にしていた投稿を、「ANAにまつわる人」にスポットライトを当てる内容へと切り替え、短尺動画機能「リール」を積極的に活用する方針へ舵を切りました。
この転換の効果は数字にも表れています。同記事によれば、戦略転換前の2022年1〜3月のフォロワー増加数が約8,100人だったのに対し、転換後の同年4〜6月には約23,600人増と、増加率にして約2.9倍に達したと報じられています。また、同時期の投稿件数も前年同期の41件から105件へと2倍以上に増加しており、コンテンツの「量」と「切り口の多様化」を同時に進めたことがうかがえます(出典:日経クロストレンド「ANAがインスタ戦略を大転換 リール活用でフォロワー増加率2.9倍」)。
ここから読み取れる教訓はシンプルです。「素材はきれいだから」という理由だけで同じフォーマットの投稿を続けていても、ある時点で伸びは頭打ちになります。ANAの事例は、たとえ強力なビジュアル資産(美しい機体・景色)を持つ企業であっても、コンテンツの主役を「モノ」から「人」へ、フォーマットを「静止画」から「動画(リール)」へと定期的に見直すことの重要性を示しています。
投稿の"型"を分解する——静止画中心からリール中心への転換
ANAの投稿戦略の変化を整理すると、以下のような型の転換が見えてきます。
| 項目 | 転換前(〜2022年3月頃) | 転換後(2022年4月〜) |
|---|---|---|
| 投稿の主役 | 機体・空・景色などの「モノ」 | 社員・ANAグループの取り組みなどの「人」 |
| メインフォーマット | 静止画 | リール(短尺動画) |
| 投稿頻度の傾向 | 相対的に少なめ | 大幅増加(前年同期比2倍以上) |
| フォロワー増加の傾向 | 緩やか | 加速(増加率約2.9倍) |
(出典:日経クロストレンド報道内容をもとに編集部作成)
この表から分かるのは、「何を撮るか」だけでなく「誰の視点で、どの形式で見せるか」という設計そのものを変えたことが転換点になったという点です。旅行・交通業界に限らず、飲食店であれば「料理」だけでなく「作る人・接客する人」、アパレルであれば「商品」だけでなく「選ぶスタッフ・着る人」というように、被写体を"モノ"から"人"へスライドさせるだけで、コンテンツの見え方が大きく変わります。人が映ることで、フォロワーは「その先に働いている人がいる」ことを感じ取り、共感や親近感が生まれやすくなるためです。
世界観のつくり方——"航空会社らしさ"と"人の物語"の両立
ANAの投稿を見ていくと、単に「人を映せばよい」という単純な話ではなく、ブランドとしての世界観を保ちながら人にフォーカスしている点が特徴的です。マーケティング専門メディアMarkeZineの記事タイトルにもある通り、ANAのInstagram運用は「ビジュアル起点」であることが軸として維持されています。つまり、被写体を人に寄せつつも、構図や色味、世界観の統一感(青を基調としたブランドカラーの一貫した使用など)は崩さず、フィード全体で見たときに「ANAらしさ」が保たれるよう設計されていると考えられます。
これは他業種にも応用できる重要な視点です。世界観の一貫性とは「毎回同じような写真を投稿すること」ではなく、「切り口や被写体が変わっても、色味・トーン・文体といった"共通言語"を保つこと」を指します。例えば以下のような要素を統一するだけでも、フィード全体の世界観はぐっとまとまります。
- 使用するフィルター・色調(暖色系/寒色系、彩度の高さなど)のルール化
- キャプションの文体(丁寧語か親しみやすい口調か)の統一
- ロゴやブランドカラーをさりげなく画角に入れる工夫
- 人物を映す際の距離感(顔が見える近さか、後ろ姿中心か)の統一
エンゲージメントを生むUGC・ハッシュタグ施策
ANAはユーザー参加型のハッシュタグキャンペーンも継続的に展開しています。代表的なものが「#anaタビキブン」で、旅先での写真をユーザー自身がこのハッシュタグを付けて投稿する仕組みです。このハッシュタグには、これまでに3万件を超える投稿が蓄積されているとされ、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用した事例として複数のマーケティングメディアで紹介されています(出典:ガイアックス ソーシャルメディアラボ「UGCを活用したInstagram企業アカウント運用事例10選」ほか)。
このほかにも、旅先で見つけた「青いもの」をテーマに投稿を募る「#ANA旅のブルーバトンキャンペーン」のような、月替わりでお題を変える参加型企画も実施されています。単発のプレゼントキャンペーンで終わらせず、継続的にユーザーが参加できる"お題"を用意している点がポイントです。
UGC施策を自社で設計する際にありがちな失敗は、「ハッシュタグを作っただけで満足してしまう」ことです。ANAの事例から学べる設計のコツを整理すると、以下のようになります。
- 覚えやすく、かつ検索されたときに自社の投稿だけが集まる固有性のあるハッシュタグにする
- お題(テーマ)を定期的に変え、参加のハードルを下げ続ける(例:季節ごと、月ごとにテーマを変更)
- 投稿されたUGCを公式アカウントが積極的にリポスト・紹介し、参加者にフィードバックを返す
- 応募条件をシンプルにする(フォロー+指定ハッシュタグ投稿、程度に留める)
グローバル展開・複数アカウント運用に見る「役割分担」の発想
ANAはグローバル向けにも複数のSNSアカウントを運用しています。ADDIX社が公開しているインタビュー記事によると、ANAのマーケティング担当者は、欧州・アジア圏向けの英語版「グローバル」アカウントに加え、香港・台湾といった地域ごとに現地語のアカウントを個別に運用しているとされています(出典:ADDIX「世界中にファンを作る!ANAのSNSの担当者に聞く、海外向けSNS戦略の秘密」)。
これは大企業だからこそ可能な体制に見えるかもしれませんが、地域や客層によってアカウントの「言語」「文化的な文脈」「見せ方」を変えるという発想自体は、複数拠点を持つ企業や、国内外双方に顧客を持つ店舗・ブランドにとっても示唆に富みます。1つのアカウントで全ての客層に同じトーンで語りかけるのではなく、「誰に向けた発信か」を明確にしたうえでアカウント設計(あるいは投稿内容の出し分け)を検討する価値があるということです。
自社アカウントに応用できる実践チェックリスト
ここまでの分析を踏まえ、明日から自社のInstagram運用に取り入れられるチェックリストをまとめます。
- 直近3ヶ月の投稿を見返し、「モノ・景色」中心の投稿と「人」が映っている投稿の比率を数えてみる
- リール(短尺動画)の投稿比率を確認し、静止画だけに偏っていないかをチェックする
- スタッフや現場で働く人にスポットを当てた投稿を、月に最低1本は企画する
- フィード全体を並べて見たときに、色味・トーン・文体に統一感があるかを確認する
- 自社独自のハッシュタグを1つ決め、固定のプロフィール欄・投稿キャプションに明記する
- ハッシュタグ企画には「お題」を設定し、季節や月ごとに切り替える設計にする
- ユーザーが投稿したUGCを月1回以上、公式アカウントでリポスト・紹介する
- 自社が使う各SNS(Instagram、X、LINEなど)に、それぞれ異なる役割(認知/告知/リアルタイム対応など)を割り振り、内容が重複しすぎていないか見直す
いきなり全てに着手する必要はありません。まずは「投稿の主役をモノから人に変えてみる」「月1回のUGC紹介を始めてみる」など、リソースに応じて1〜2項目から試すだけでも、フィードの印象は変わっていきます。
背景にあるSNS利用環境の変化
こうした運用の見直しが有効な背景には、国内のSNS利用状況そのものの変化があります。総務省が公表した「令和6年版情報通信白書」によれば、Instagramの全年代における利用率は52.6%で、前年の48.4%から4.2ポイント上昇しており、特に10代〜30代では利用率が70%を超えるとされています。多くの生活者が日常的にInstagramに触れる中で、企業アカウントが「広告然とした発信」だけを続けていると埋没しやすく、ANAのように「人の物語」や「参加型の企画」を通じてユーザーとの接点を増やす工夫が、相対的に重要性を増していると考えられます。
また、Web担当者Forumが2024年に開催したイベントのレポート記事タイトルには「総フォロワー数520万人 ANAのSNS戦略! ショート動画でファンを拡大」とあり、Instagramに限らず複数のSNSを横断してショート動画を軸にファン拡大に取り組んでいる姿勢が、業界内のカンファレンスでも継続的に取り上げられていることがうかがえます(出典:Web担当者Forum「【レポート】Web担当者Forumミーティング2024春」)。数字そのものよりも、こうした運用姿勢が業界内で継続的に注目・共有されている点に、学びの価値があるといえるでしょう。
まとめ
ANAのInstagram運用から読み取れる要点は、大きく3つに整理できます。第一に、たとえ「機体」「景色」といった強力なビジュアル資産があっても、それだけに頼らず「人」を主役にした企画へ切り替えたこと。第二に、静止画からリール(短尺動画)へとフォーマットの重心を移し、コンテンツの量と多様性を同時に増やしたこと。第三に、ハッシュタグを使ったUGC施策を単発で終わらせず、お題を変えながら継続的にユーザー参加を促し続けていることです。
これらは航空会社という大企業だからこそできる特別な取り組みではなく、被写体の選び方、フォーマットの見直し、ハッシュタグ企画の設計といった、規模を問わず取り入れられる工夫の積み重ねです。まずはチェックリストの中から1つ、自社アカウントで試せそうな項目を選び、次回の投稿から取り入れてみてください。
より具体的な業種別の事例を知りたい方は、unyouの事例データベース(https://unyou.media)にある旅行・観光業界のSNS運用事例もあわせてご覧ください。他社の投稿の型や企画の作り方を具体的に見ることで、自社アカウントに落とし込むヒントがさらに見つかるはずです。
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