「毎日投稿しているのに反応が薄い」「セール告知やキャンペーンを打つたびにフォロワーが減っていく気がする」——SNS運用の現場では、こうした悩みが尽きません。特に旅行・宿泊・飲食・美容など、体験そのものを売る業種ほど、値引きやスペック訴求だけでは「行きたい」という感情を動かせず、フィードが埋もれていく感覚に苦しんでいる担当者は多いのではないでしょうか。
そんな中で、投稿数を絞りながらも独特の世界観でフィードを作り、業界内外から「あのアカウントは違う」と語られ続けているのが、超高級ホテルブランド「アマン(Aman)」です。派手なキャンペーンも、頻繁な値引き告知もほとんど行わないにもかかわらず、なぜアマンの発信は多くの旅行者やマーケターの記憶に残るのでしょうか。本記事では、公開情報をもとにアマンのSNS運用・ブランディングの構造を分解し、業種や規模を問わず応用できるポイントに落とし込みます。
アマン(Aman)とはどんなブランドか
アマンは1988年にタイ・プーケットの「アマンプリ」を第一号として開業した超高級リゾートブランドです。ブランド名はサンスクリット語で「平和」「安らぎ」を意味し、この理念が空間設計から接客、そして情報発信のトーンにまで一貫して貫かれています。
ホテル業界分析記事「【ホテル業界分析】#6 AMAN RESORTS」(note)によると、アマンは世界20カ国に35軒という小規模展開を貫き、いずれの施設も客室数を50室以内に抑えるブティック型の設計を特徴としています。都心の大型ラグジュアリーホテルが数百室規模を稼働させて収益を確保するのに対し、アマンはあえて「小さく、密度の濃い体験」を選んでいる点がブランドの根幹にあります。この「規模を追わない」という経営姿勢が、そのままSNS運用における「投稿数を追わない」姿勢にも表れているのが興味深いところです。
日本国内では「アマン東京」「アマン京都」がそれぞれ独立したInstagramアカウントを持ち、都市ごと・施設ごとに異なる世界観を打ち出しながらも、ブランド全体としての「静けさ」「余白」のトーンは統一されています。これは、複数拠点や複数事業を持つ企業がアカウント設計を考える際にも参考になる構造です。

なぜアマンのInstagramは「フォローしたくなる」のか
アマンの発信を観察すると、一般的なホテル・観光施設のアカウントとは明らかに異なる編集方針が見えてきます。
第一に、建築・自然・光の陰影を主役にした構図が徹底されている点です。客室設備やアメニティを羅列的に見せるのではなく、「その空間で過ごす静かな時間」そのものを想像させるカットが中心に置かれています。第二に、投稿頻度を抑え、1枚1枚の情報密度と完成度を優先していること。第三に、キャプションが説明過多にならず、余白を残す言葉選びがなされていることです。
これは偶然の結果ではなく、ブランドの経営思想そのものの反映だと考えられます。JMR生活総合研究所の記事「都心高級ホテル競争『アマン』VS.『リッツ』」では、都心の海外ラグジュアリーホテルがひしめく激戦区において、アマンとザ・リッツ・カールトンでは経営戦略とマーケティングの組み立て方がまったく異なると指摘されています。同記事では、アマンの熱心なファンが「#amanjunkie」というハッシュタグを自発的に使い、SNS上で情報を共有し合っている様子にも触れられており、ブランド側が煽らなくても、ユーザー側が能動的に発信したくなる余地を設計している点が特徴として読み取れます。
投稿の型・コンテンツ設計を分解する
アマン系アカウントの投稿は、大きく次のような「型」に整理できます。
- 空間・建築カット:客室や共用空間を、生活感やスタッフの姿を排除した状態で撮影し、静謐さを強調する
- 自然・気候のディテール:朝霧、水面の反射、木漏れ日など、その土地固有の自然現象にフォーカスする
- 文化・工芸への言及:滞在先の地域文化や伝統工芸、食材など「その土地でしか語れない物語」を差し込む
- 人物は最小限:ゲストやスタッフを写す場合も、顔や表情よりも所作・後ろ姿・シルエットで「余白のある物語」を残す
この設計思想は、価格訴求や機能訴求に頼れない業種——たとえば旅館、美容室、飲食店、工芸品店など——にとって特に参考になります。「何ができるか」ではなく「そこで過ごす時間がどう感じられるか」を主語にして投稿を組み立てる発想は、フォロワー数の多寡にかかわらず、アカウントの印象を大きく変える余地があります。
広告に頼らないエンゲージメント施策
マーケティング分析サイト「勝手にマーケティング分析」に掲載された「アマンホテルが選ばれる理由」でも触れられているように、アマンは広告出稿を極力抑え、口コミとリピーター(いわゆる「アマンジャンキー」)による自発的な発信を成長のエンジンにしてきたとされています。アマンジャンキーと呼ばれるリピーター層はアマンのビジネスの50%を占めるとされ、彼らが複数のアマン施設を巡る旅そのものをSNSで共有することが、ブランドにとって最も強力な"広告"になっています。
これは、フォロワーを「見込み客」としてだけでなく「発信者候補」として捉える設計と言い換えられます。具体的には次のような要素が組み合わさっていると考えられます。
- 一貫した世界観により、ユーザーが自分の投稿でも同じトーンを再現しやすい(=UGCの質が保たれる)
- 過度な宣伝色を排除することで、ユーザーが「広告っぽい投稿」に見られる心理的抵抗を感じにくい
- 施設ごと・拠点ごとにアカウントを分けることで、リピーターが「制覇欲」「コレクション欲」を持ちやすい
企業や店舗の運用に置き換えると、「自社のアカウントがフォロワーにどう真似されうるか」を逆算して投稿を設計する発想が有効です。ハッシュタグやタグ付けを強制せず、世界観そのものに引力を持たせることが、結果的に自然発生的な拡散につながります。
数字で見る「旅行×SNS」の重要性
アマンのような特殊事例だけでなく、旅行領域全体においてInstagramが情報収集・意思決定に与える影響は、公的統計・調査データからも裏付けられています。
| 指標 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| SNS全体の利用動向 | 2024年時点でInstagramはXと並び、国民の約半数が利用。50代でも利用率が4割を超えるなど、年齢層を問わず利用が拡大 | 総務省「令和7年版 情報通信白書」 |
| 旅行先・プラン決定時の情報収集 | Z世代が旅行先・プランを決める際、Instagramの投稿・ストーリーを参考にする割合は47.9%でトップ(2位はGoogle検索45.8%) | Utakata調査(マナミナ「まなべるみんなのデータマーケティング・マガジン」掲載) |
| ロイヤル顧客の存在感 | アマンの「アマンジャンキー」と呼ばれるリピーター層が売上構成比の50%を占める | note「【ホテル業界分析】#6 AMAN RESORTS」 |
この表からわかるのは、若年層を中心に「検索」より先に「Instagramで気分を確かめる」行動が定着しつつあるという事実です。旅行・宿泊業に限らず、体験や空間を提供する業種であれば、Instagramのフィードが実質的な"第一想起"の場になっていると捉えるべきでしょう。数値の大小を追うキャンペーン型運用だけでなく、「じっくり眺めたくなる世界観」を作ることが、意思決定の初期段階に食い込む手段になり得ます。
中小企業・店舗が明日から真似できる実践ポイント
アマンの手法をそのまま模倣することはできませんが、構造を分解すれば、規模の小さいアカウントでも応用できる要素は多くあります。以下はすぐに着手できるチェックリストです。
- 投稿の主語を「モノ」から「時間・体験」に変える:商品カットの前に「その商品がある時間・場面」を1枚挟んでみる
- 説明キャプションを一度削ってみる:情報過多なキャプションを半分の文字数に削り、余白を作れないか試す
- 人物写真は表情より所作・シルエットを意識する:笑顔のドアップだけでなく、後ろ姿・手元・雰囲気カットを1枚は入れる
- 投稿頻度より1投稿の完成度を優先する週を作ってみる:1週間、投稿数を減らし、選定・編集に時間をかけて反応を比較する
- 顧客が真似したくなる構図を1つ用意する:自社アカウントの人気投稿の構図を参考に、来店客が同じアングルで撮りたくなる"型"を店内・空間に作る
- ハッシュタグを強制せず、名乗りやすい呼称を用意する:「#amanjunkie」のように、ファンが自然に使いたくなる短い愛称・ハッシュタグ案を仮で作ってみる
- 拠点・商品ラインごとにアカウントを分ける必要があるか検討する:複数店舗・複数ブランドを持つ場合、統一トーンを保ちながら別アカウント運用が有効か検証する
特に「投稿頻度より完成度」「説明よりも余白」という発想は、多くの企業アカウントが逆を向いてしまいがちなポイントです。フォロワーに「情報」を届けることだけを目的にすると、どうしても投稿は説明的になり、フィード全体の統一感が失われていきます。一度、直近10投稿を並べて「一貫した世界観として見えるか」をチェックしてみることをおすすめします。
他業種の事例からも学ぶ
アマンのような高級ホテル業態の手法がそのまま自社に当てはまるとは限りません。世界観づくりが得意な業種もあれば、キャンペーン訴求や情報発信の速さで支持を得ている業種もあります。unyouのSNS運用事例データベース(/cases)では、旅行・宿泊業に限らず、飲食・美容・小売など業種別の実際の運用事例を数多く掲載しています。自社の業種・規模に近い事例を探し、投稿の型やエンゲージメント施策を具体的に比較してみることで、今回紹介したような世界観設計のヒントをより実践的な形で取り入れることができます。
まとめ
アマンのInstagram運用が支持される背景には、「客室数を追わない」「広告に頼らない」というブランド経営の思想そのものが反映されています。空間・自然・文化を主語にした投稿の型、余白を残すキャプション、リピーターが自発的に発信したくなる仕組みは、いずれも派手な施策ではなく、地道な編集方針の積み重ねです。フォロワー数やエンゲージメント率といった数字だけを追うのではなく、「自社のアカウントは何を主語に発信しているか」「フォロワーはそれを真似したくなるか」を問い直すことが、業種・規模を問わず応用できる第一歩になります。まずは直近の投稿を並べて見直すところから始めてみてください。
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補足:Web検索とWebFetchの権限が承認されなかったため、ファイルへの保存は行わずチャット本文として出力しました。ファイル保存が必要でしたら、権限を許可いただければ書き出します。
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