SNS運用担当者にとって、景品表示法(景表法)と薬機法の社内チェックは「知ってはいるけれど、誰が最終判断するのか曖昧」「投稿の入稿スピードを優先するあまり、法務確認が後回しになっている」という悩みを抱えがちなテーマです。特にコスメ・美容・健康食品・医療機器周辺のブランドアカウントを運用していると、キャッチコピー1つ、ビフォーアフター画像1枚の扱いに神経を使う一方で、「そもそも社内にレビュー基準がない」「担当者の感覚頼みになっている」という会社は少なくありません。
炎上や行政指導のリスクは、担当者個人の注意力だけではカバーしきれません。必要なのは、投稿前に誰が・何を・どの基準でチェックするかを明文化した「体制」です。本記事では、2026年時点でSNS担当が押さえておくべき景表法・薬機法の要点と、明日から使える社内チェック体制の作り方を、チェックリストや報告テンプレートを交えて解説します。
なぜ今、SNS担当に「社内チェック体制」が必要なのか
SNSは投稿から公開までのリードタイムが極端に短いメディアです。プレスリリースや広告物であれば法務・薬事担当のレビューを通す文化があっても、SNS投稿は「現場の裁量」で当日中に出稿されることが珍しくありません。この速度感がSNS特有のリスクを生みます。
背景には、SNSが生活者にとって完全に日常的な情報接点になっているという事実があります。総務省「令和6年版 情報通信白書」では、SNSの利用が幅広い年代に浸透していることが継続して示されており、企業の発信が生活者の購買行動に直接影響する接点として重みを増しています。LINEヤフー株式会社が公表しているLINEの国内月間利用者数(MAU)は9,700万人超、Meta(旧Facebook)が発表したInstagramの国内月間アクティブアカウント数は3,300万人(2019年6月時点公表)とされており、いずれも一つの投稿が到達しうる母数の大きさを物語っています。母数が大きいということは、それだけ違反表示が拡散した場合の影響範囲も大きいということです。
さらに制度面でも、SNS上の表示に対する規制は年々強化されています。消費者庁は2023年10月1日に、事業者の表示であることを一般消費者が判別しにくい表示(いわゆるステルスマーケティング)を景品表示法上の不当表示として規制する運用基準を施行しました。インフルエンサー起用や「中の人」による発信も対象になり得るため、SNS担当が「広告であることの明示」を投稿設計の初期段階から意識する必要が生まれています。

景品表示法・薬機法、SNS担当が最低限押さえるべき基本
チェック体制を作る前提として、担当者全員が同じ土俵で判断できるよう、基本の枠組みを共有しておく必要があります。
景品表示法(景表法) は、商品・サービスの内容や価格について、実際よりも著しく優良・有利だと誤認させる表示を禁止する法律です。SNS運用で特に問題になりやすいのは次の2類型です。
- 優良誤認表示:効果・品質を実際より優れているかのように見せる表現(「業界No.1」「絶対痩せる」など、根拠のない優位性の主張)
- 有利誤認表示:価格・取引条件を実際より有利に見せる表現(「今だけ半額」を常時表示している、二重価格表示の根拠が曖昧など)
消費者庁は景品表示法に基づく課徴金制度を2016年4月1日に施行しており、悪質な不当表示には売上額に応じた課徴金が課される仕組みが整っています。「知らなかった」では済まない制度設計になっている点は、社内説得の材料としても押さえておきたい事実です。
薬機法(医薬品医療機器等法) は、化粧品・健康食品・医薬部外品・医療機器などについて、承認されていない効能効果を標榜する広告を禁止します。「シミが消える」「アトピーが治る」といった治療効果の断定表現、ビフォーアフター画像による過度な効果訴求は典型的な違反パターンです。厚生労働省は虚偽・誇大広告に対する課徴金制度を2021年8月1日に施行しており、こちらも景表法同様、行政指導にとどまらない金銭的リスクが制度化されています。
いずれの法律も「意図的な誇張」だけでなく、「担当者の言葉選びの癖」や「フォロワーとの距離感を縮めるための軽いノリ」が結果的に抵触するケースが多い点が、SNS特有の落とし穴です。
SNS投稿で特に注意すべき表現パターン
現場でよく問題になる表現を、関連法規とともに整理しました。投稿前チェックの「観点表」として社内共有する際のベースにしてください。
| 表現パターン | 具体例 | 関連法規 | チェックの視点 |
|---|---|---|---|
| 効果の断定 | 「必ず痩せる」「シワが消える」 | 景表法(優良誤認)/薬機法 | 個人差がある結果を断定していないか |
| 最上級・独自性の主張 | 「業界No.1」「日本初」 | 景表法(優良誤認) | 客観的根拠(調査データ・出典)があるか |
| 誇張された価格表示 | 「通常価格」の根拠が不明な二重価格 | 景表法(有利誤認) | 比較対象の価格に実売実績があるか |
| ビフォーアフター画像 | 使用前後の写真で効果を暗示 | 薬機法 | 個人の感想である旨・効果保証でない旨の明示があるか |
| インフルエンサー投稿 | PR表記のないタイアップ投稿 | 景表法(ステマ規制) | 「#PR」「広告」等、第三者にも分かる表示があるか |
| 体験談・口コミの引用 | 「〇〇が治った」というユーザーの声の転載 | 薬機法 | 効果効能を保証する文脈で使っていないか |
この表はあくまで出発点です。自社の商材カテゴリー(化粧品なのか、健康食品なのか、一般消費財なのか)によって注意すべき比重は変わるため、社内の法務・薬事担当と一緒にカスタマイズすることをおすすめします。
社内チェック体制の作り方:5ステップ
チェックリストだけを配って終わりにすると、運用が形骸化しがちです。体制として機能させるには、以下の5ステップで設計します。
- 投稿の分類を決める:通常投稿・キャンペーン告知・インフルエンサー起用・レビュー引用など、リスクレベルごとに投稿をカテゴリ分けする
- チェック担当と承認ルートを決める:誰が一次チェック(SNS担当内)を行い、誰が最終承認(法務・薬事・マーケ責任者)を行うかをフロー図にする
- リスク別にレビュー期限を決める:高リスク投稿(効能訴求・キャンペーン)は前日までにレビュー依頼、低リスク投稿(日常投稿)は当日確認可、のように差をつける
- NGワード・表現集を運用する:過去に指摘を受けた表現、業界でよく問題になる表現をリスト化し、投稿作成時点で自己チェックできるようにする
- インシデントログを残す:修正・差し戻しが発生した投稿は理由とともに記録し、月次でパターンを振り返る
このステップを最初から完璧に整える必要はありません。まずは4と5(NGワード集とログ)だけでも始められると、投稿担当の負担を抑えながら再発防止につなげられます。
明日から使える投稿前チェックリスト
投稿ボタンを押す前に、担当者自身が5分で確認できる項目です。社内Wikiやテンプレートに貼り付けてそのまま使えます。
- 効果・効能について「必ず」「絶対」など断定表現を使っていないか
- 「No.1」「初」「最高」などの表現に、出典・調査元を明記できるか
- 価格・割引表示の比較対象(通常価格など)に実売実績の根拠があるか
- ビフォーアフター画像・体験談に「個人の感想であり効果を保証するものではありません」旨の注記があるか
- インフルエンサー・タイアップ投稿に広告である旨の表示(PR、広告など)があるか
- 薬機法対象カテゴリー(化粧品・健康食品等)の場合、承認外の効能効果を暗示していないか
- 過去に指摘・修正歴のある表現と類似していないか(NGワード集との照合)
- 高リスク投稿の場合、法務・薬事担当の承認ログが残っているか
このチェックリストにひとつでも不安が残る場合は、公開を止めて確認するルールにしておくことが、事後対応のコストを大きく下げます。
上司・経営層を説得する報告テンプレート・言い回し
チェック体制の導入には、追加の工数や承認フローが伴うため、経営層の理解が欠かせません。次のような切り口で説明すると通りやすくなります。
- リスクの金銭的インパクトを示す:「景表法の課徴金制度は売上額に連動するため、指摘後の対応コストより事前チェックの工数のほうが小さい」
- 制度強化の流れを示す:「2023年10月のステマ規制施行以降、SNS上の表示に対する行政の目線は厳しくなっている(出典:消費者庁)」
- 競合・業界の動きを示す:「同業他社もインフルエンサー起用時のPR表記運用を強化している」
- 小さく始める提案をする:「まずは高リスク投稿(キャンペーン・効能訴求を含む投稿)だけ承認フローを設け、運用負荷を見ながら拡大する」
報告資料には「何が問題になりうるか」だけでなく、「どのくらいの工数増で、どんなリスクが下がるのか」を併記すると意思決定がスムーズです。
チェック体制の効果を測る指標(KPI)
体制を作った後は、形骸化させないための指標を持っておくと、経営層への定期報告もしやすくなります。
- 投稿前レビューの実施率(高リスク投稿のうち、承認フローを通った割合)
- 差し戻し件数とその理由の内訳(表現ジャンル別)
- 差し戻しから修正・公開までのリードタイム
- 過去指摘表現の再発件数(NGワード集の有効性を測る指標)
これらは月次でSNS担当チーム内に共有し、四半期ごとに法務・薬事担当を交えて振り返ると、チェック基準のアップデートにもつながります。
unyouの事例データベースを活用したチェック体制の底上げ
社内だけで判断基準を磨き続けるのは限界があります。他社がどのような投稿設計・表現ルールでキャンペーンを運用しているかを知ることは、自社のNGワード集や承認基準を見直す際の参考になります。SNS運用事例データベース「unyou」(https://unyou.media)では、業種別のSNS運用事例を横断的に確認できるため、「同じ業界の他社はどんな言い回しで訴求しているか」「キャンペーン告知の際にどんな注記を添えているか」といった具体的な運用実態を把握する材料として活用できます。
社内のチェック基準を作る際、抽象的なルールだけでなく実例をベースに議論すると、現場の納得感も得やすくなります。自社だけでの体制構築に限界を感じる場合は、運用代行会社への部分的な委託も選択肢です。判断に迷う場合は、比較検討の材料としてunyouの事例や相談窓口を確認してみてください。
まとめ
SNS投稿における景表法・薬機法対応は、担当者個人の注意力に頼るのではなく、分類・承認ルート・レビュー期限・NGワード集・ログという5つの要素を備えた「体制」として設計することが重要です。ステマ規制の施行(2023年10月1日、消費者庁)や課徴金制度の存在(景表法は2016年4月施行、薬機法は2021年8月施行)は、SNS上の表示に対する社会的な目線が年々厳しくなっていることを示しています。まずは高リスク投稿に絞ったチェックリストと承認フローから始め、指標をもとに体制を育てていくアプローチが現実的です。他社の運用実態を知りたい場合は、unyouの事例データベースも活用しながら、自社に合ったチェック体制を構築してください。
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