「毎日投稿しているのに、いいねもコメントも増えない」「本社のブランドガイドラインが厳しくて、当たり障りのない投稿しかできない」「担当者が変わるたびに世界観がブレる」——企業の公式Instagramを運用していると、こうした壁に何度もぶつかります。フォロワーを増やすためにトレンドのリールを真似してみても、なぜか自社アカウントだけ反応が薄い。そんな経験をしたことがある担当者は少なくないはずです。
そこで参考になるのが、老舗製薬会社でありながらSNS運用の「型」がしっかりしていると評判のロート製薬公式Instagram(@rohto_official)です。目薬やスキンケアブランド「肌ラボ」などを抱える同社は、単一商品のプロモーションに寄らない「会社アカウント」としての運用スタイルを確立し、業界内でも運用手法が繰り返し取り上げられています。本記事では、公開されている同社の発信内容やインタビュー記事、SNS運用データベース「unyou」の事例知見をもとに、ロート製薬のInstagram運用が支持されている理由を分解し、規模や業種を問わず応用できるポイントに落とし込みます。なお、フォロワー数やエンゲージメント率など裏付けの取れない数値は本記事では扱いません。
ロート製薬のInstagram運用の前提を理解する
まず押さえておきたいのは、ロート製薬が「ブランドごと」ではなく「企業として」公式Instagramを運用している点です。同社は肌ラボ、メンソレータム、Vロートなど複数のブランドを展開していますが、公式Instagramアカウントはそれらを横断する「ロート製薬」という会社の名前で運営されています。
この設計には明確なメリットがあります。単一ブランドのアカウントだと「新商品の紹介」「セール告知」といった宣伝色の強い投稿に偏りがちですが、企業アカウントであれば「複数ブランドの中からおすすめを比較する」「季節や悩みに合わせて商品を横断的に紹介する」といった、生活者目線の企画がしやすくなります。ブランドの垣根を越えて情報を編集できることが、フォロワーにとって「役立つ発信」に見える土台になっています。
これは中小企業や個人店舗にも応用できる考え方です。取扱商品やメニューが複数ある場合、商品単位ではなく「お店として何を伝えたいか」という編集目線を持つだけで、投稿の幅は大きく広がります。

理由①:バズよりも「積み上げ」を優先する運用方針
ロート製薬の広報担当者へのインタビュー記事では、SNS運用において「バズを狙わない」という姿勢が繰り返し語られています。単発で拡散を狙う投稿よりも、フォロワーに継続的に「いいな」と思ってもらえる発信を積み重ねることで、結果的に反応が集まっていくという考え方です。
これは多くの企業アカウントが陥りがちな罠への警鐘でもあります。バズを狙った企画は当たれば大きな効果がありますが、外れたときのトーンの乱れや、ブランドイメージとのミスマッチのリスクも抱えています。ロート製薬のように「誰に、どんな気持ちになってほしいか」を軸に据えて投稿を設計すると、単発の数字に一喜一憂せず、中長期でアカウントの信頼を積み上げやすくなります。
理由②:フォロワーを「仲間」として扱うコミュニケーション設計
ロート製薬の中の人が公式note上で語っている運用方針の中で印象的なのが、「フォロワーを仲間として増やしている感覚」という表現です。フォロワーを単なる「見込み客」や「拡散装置」として見るのではなく、共に時間を過ごす仲間として捉え、コメント欄やタイムライン上でも労いや共感を伝えるコミュニケーションを大切にしているといいます。
具体的には、フォロワーに対して「疲れた時には休んだほうがいい」「頑張れないこともあるよね」といった、生活者と同じ目線に立った言葉を投げかける運用スタイルが紹介されています。企業アカウントにありがちな「お知らせ口調」ではなく、一人の生活者として寄り添う温度感を意識的に作っている点が、他の企業アカウントとの大きな違いです。
この考え方は、コメント返信やストーリーズのやり取りにもそのまま応用できます。定型文の返信ではなく、フォロワーの投稿内容に合わせた一言を添えるだけで、アカウントの「人格」が伝わりやすくなります。
理由③:媒体ごとの役割分担がはっきりしている
ロート製薬はInstagramだけでなく、X(旧Twitter)、TikTok、Facebook、YouTube、公式noteなど複数のSNSを運営していますが、それぞれの媒体に異なる役割を持たせている点も特徴です。公開情報を整理すると、おおよそ次のような役割分担が見えてきます。
| 媒体 | 主な役割 | 発信トーン |
|---|---|---|
| 商品・生活シーンの世界観訴求 | ビジュアル重視、丁寧で親しみやすい | |
| X(旧Twitter) | 生活者との日常的な会話・共感発信 | フランクで距離が近い |
| TikTok | 若年層への商品体験・企画訴求 | テンポよくエンタメ性が高い |
| Facebook・note | 企業としての取り組み・想いの発信 | ストーリーテリング重視、じっくり読ませる |
このように「商品情報を届ける媒体」と「企業の姿勢や想いを届ける媒体」を切り分けていることで、Instagramでは生活シーンに寄り添ったビジュアル訴求に集中でき、結果として世界観の一貫性が保たれています。複数のSNSを運用しているのに、どのアカウントを見ても「らしさ」がブレないのは、この役割設計があるからです。
自社で複数のSNSを運用している、あるいはこれから増やそうとしている担当者は、まず「どの媒体に何を任せるか」を紙に書き出してみることをおすすめします。すべての媒体で同じ内容を横流しにするのではなく、媒体ごとに得意なフォーマットと役割を割り振ることが、結果的にどのアカウントの完成度も高めます。
理由④:生活シーンに商品を溶け込ませる企画力
ロート製薬は過去に、フォトグラファーが自宅スペースを活用してリモートで撮影を行うクリエイティブ企画を実施しています。「Skin care」「Food」「Color」「My favorite」「Digital detox」「Rhythm」という6つの切り口から、家の中で感じられる小さな幸せな瞬間を表現するという内容でした。
この企画が示唆的なのは、商品そのものをアップで見せるのではなく、商品が使われる「生活の一場面」として撮影テーマを設計している点です。スキンケアや目薬は本来、朝晩のルーティンや疲れた合間のケアなど、生活の中の小さな瞬間に登場するものです。その瞬間ごと切り取ることで、押し売り感のない自然な形で商品を印象づけることに成功しています。
これは業種を問わず応用可能な企画のつくり方です。「商品を主語にする」のではなく「生活シーンを主語にして、その中に商品を置く」という発想の転換だけで、投稿の見え方は大きく変わります。
なぜ今、この運用姿勢がより重要になっているのか
ここで、企業がSNS発信に力を入れるべき理由を裏付ける公開データを確認しておきます。
まず、総務省「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によれば、Instagramの利用率は10代から30代で70%を超えており、若年層から働き盛り世代まで幅広くリーチできるプラットフォームであることがわかります。ロート製薬が扱うスキンケアや目薬といった商品は、まさにこの年齢層と重なる生活者向けの商品であり、Instagramを重点媒体に据えることは合理的な選択だと言えます。
また、総務省「令和6年通信利用動向調査」では、インターネット利用者のうちSNSを利用している人の割合は81.9%にのぼるとされています。生活者の大半が何らかの形でSNSに触れている以上、企業側が「発信しないこと」自体がリーチの機会損失につながる時代になっていることが読み取れます。
さらに、化粧品・スキンケア分野に関する消費者調査(マナビス化粧品、PR TIMES掲載、2026年6月実施・20〜40代女性1,014人対象)では、SNSや雑誌で話題になったスキンケア商品を実際に購入した経験がある人が8割を超えるという結果が出ています。話題化と購買行動が強く結びついている業界だからこそ、単発の宣伝ではなく、継続的に「いいな」と思われる発信を積み重ねるロート製薬のような運用スタイルが効果を発揮しやすいと考えられます。
明日から試せる!自社アカウントへの応用チェックリスト
ロート製薬の運用から学べるポイントを、実際に自社アカウントで試せるチェックリストの形に落とし込みました。
- 自社の投稿を「商品紹介」ではなく「生活シーンの一部」として企画し直せないか見直す
- 複数の商品・メニューがある場合、ブランド単位ではなく「編集部目線」で横断企画を1本考えてみる
- 直近の投稿を振り返り、「お知らせ口調」になっているものを1つ選んで、生活者目線の言葉に書き換える
- コメント返信のテンプレートを見直し、定型文ではなく相手の投稿内容に触れた一言を添える
- 運用している媒体ごとに「誰に」「何を」「どんなトーンで」届けるかを一枚の表にまとめる
- 直近1ヶ月の投稿を並べて、世界観やトーンにブレがないかをチェックする
- バズを狙った単発企画に頼らず、次の1ヶ月で継続できる小さな発信テーマを1つ決める
これらは特別な予算やツールがなくても、明日の投稿から実践できる内容です。まずは1つだけでも取り入れて、投稿の反応やコメントの温度感がどう変わるかを観察してみてください。
まとめ
ロート製薬の公式Instagramが支持されている背景には、派手なバズ施策ではなく、「会社としての編集目線」「フォロワーを仲間として扱う姿勢」「媒体ごとの役割分担」「生活シーンに寄り添った企画力」という、地道だからこそ真似しやすい要素が詰まっています。フォロワー数や再生回数といった結果指標だけを追いかけるのではなく、まず「誰に、どんな気持ちで発信を届けたいか」という設計から見直すことが、遠回りに見えて最も確実な近道です。今回紹介したチェックリストを手がかりに、自社アカウントの運用方針を一度棚卸ししてみてはいかがでしょうか。より多くの業種のSNS運用事例を知りたい方は、unyouの事例データベース(/cases)もあわせてご覧ください。
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