「うちの会社の商品、正直インスタ映えしないんだよな……」「投稿してもリアクションが薄くて、何を発信すればいいかわからない」。SNS担当者からそんな相談を受けることは少なくありません。特に日用品・医薬部外品・生活雑貨のように、見た目の華やかさで勝負しづらい業界では、「おしゃれな世界観」を作る他社事例を見ても、どう自社に落とし込めばいいのか分からず止まってしまいがちです。
そんな中、虫ケア用品やオーラルケア、入浴剤といった「お世辞にも映えるとは言えない」商品群を扱いながら、Instagram上で何度も話題化に成功しているのがアース製薬の公式アカウントです。本記事では、公開されている情報をもとにアース製薬のInstagram運用を分解し、投稿の型・企画の作り方・エンゲージメントを生む仕組みを整理したうえで、他業種・他店舗のアカウント運営者が明日から応用できるポイントに落とし込みます。
アース製薬のInstagram運用の全体像
アース製薬は2022年6月に公式Instagramアカウント「【公式】アース製薬」(@earthofficialjp)を開設しました(出典:PR TIMES「アース製薬が公式Instagramアカウントを開設!多角的な視点で、商品の魅力を発信!」)。虫ケア用品を中心に、オーラルケア・入浴剤・お掃除用品など幅広いカテゴリーの商品を扱う企業でありながら、単なる商品写真の投稿に留まらず、ライブ配信の活用やクリエイターとのタイアップなど、複数のアプローチを組み合わせているのが特徴です。
さらに2023年6月30日には、生活の中の豆知識や家事の裏技を紹介するWeb限定品公式アカウント「アースとちょっといい暮らし」も開設しています(出典:日本経済新聞「アース製薬、公式Instagramアカウント『アースとちょっといい暮らし』を開設」)。商品訴求を目的とするメインアカウントと、生活情報で接点を作るサブアカウントを使い分けている点は、複数カテゴリーの商品を持つ企業がSNS戦略を設計するうえで参考になる構造です。

なぜ「ゴキブリ目線」企画はバズったのか
アース製薬のInstagram運用で最も注目されたのが、2022年のアカウント開設初期に展開された「もしもゴキブリがInstagramをやったら」という企画です。これは、ゴキブリ自身がインスタグラマーであるかのような設定で投稿を重ねるという、一見突飛な切り口でした。
この企画が優れていたのは、単に奇抜なだけでなく「気づかせる設計」になっていた点です。運用コンセプトを最初から明かさず投稿を続けることで、X(旧Twitter)上で「これってゴキブリ目線なのでは?」とユーザー自身に発見させる流れを作り、結果としてUGC(ユーザー生成コンテンツ)を自然発生させることに成功しました(出典:MarkeZine「『もしゴキブリがInstagramを運用したら』アース製薬の風変わりな企画がバズったワケ」)。報道によれば、この企画によってアカウント開設からおよそ2週間でフォロワー数が約13倍に増加し、X上の関連投稿は2.5万件以上リツイートされたとされています(出典:J-CASTニュース「『ゴキブリ目線』で投稿、人間に襲われ最後は...アース製薬インスタが人気、斬新企画生んだ『逆転の発想』」)。この話題化はテレビ番組での紹介にもつながり、後にACCシルバーやJAAA賞といった広告賞の受賞にも波及しています。
ここから読み取れる設計思想は明確です。「映えない商品だからこそ、商品そのものではなく“視点”を主役にする」という逆転の発想です。虫ケア用品を正面から訴求するのではなく、ターゲットである虫の視点に立つことで、商品価値を直接説明せずに強く印象づけることに成功しています。
「アースとちょっといい暮らし」に見る、継続のための工夫
バズを生む企画は瞬間的な注目を集めますが、アカウントを継続的に成長させるには別の仕組みも必要です。アース製薬が2023年に開設した「アースとちょっといい暮らし」は、この継続性を支える役割を担っていると考えられます。
このアカウントは特定商品のプロモーションというより、「生活の中の豆知識」「家事のちょっとした裏技」といった、フォロワーにとって日常的に役立つ情報を軸にしています(出典:PR TIMES「公式Instagramアカウント『アースとちょっといい暮らし』を開設」)。一発のバズ企画で得たフォロワーを維持し、ブランドへの好感度を積み上げていくには、こうした「役に立つ情報」で定期的に接点を作る設計が欠かせません。派手な企画アカウントと、実用情報アカウントを分けて運用することで、それぞれの投稿頻度やトーンを最適化できる点も見逃せないポイントです。
数字で見る、SNS運用を取り巻く環境変化
アース製薬のような取り組みが機能する背景には、日本国内のSNS利用状況の変化があります。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、SNS全体の利用率は81.9%に達しており、主要SNSの利用率は「LINE」が92.9%、「Instagram」が54.8%、「X(旧Twitter)」が44.7%、「Facebook」が27.0%となっています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」)。年代別に見ても20〜29歳で95.0%、30〜39歳で91.4%と、若年層だけでなく幅広い世代にSNS利用が浸透していることが分かります。
また、Instagramを運営するMeta社は、2023年11月に開催された「Meta Marketing Summit Japan 2023」の場で、日本国内のInstagram利用者数について「2019年に公表した3,300万人から4年間で倍以上に拡大した」と発表しています(出典:Meta「Meta Marketing Summit Japan 2023」発表内容)。具体的な最新MAU数値は公式に継続開示されていないものの、国内のInstagramユーザー基盤が拡大を続けていること自体は、企業がInstagramを活用する合理性を裏付けるデータといえます。
こうした環境の中では、「映える商品を持つ企業だけがInstagramで成果を出せる」という前提自体が崩れつつあります。アース製薬の事例は、むしろ映えにくい商材こそ企画力で差別化できることを示した好例です。
アース製薬の投稿設計を分解する
ここまでの内容を踏まえ、アース製薬のアカウント運用を要素ごとに整理すると、以下のように分解できます。
| 要素 | 内容 | 他業種への応用可能性 |
|---|---|---|
| アカウント設計 | メイン(商品訴求)とサブ(生活情報)を分離 | 複数カテゴリー・複数ブランドを持つ企業で応用しやすい |
| 企画の軸 | 商品ではなく「視点(ゴキブリ目線)」を主役にする | 直接見せにくい商材・サービスを扱う業種全般に応用可能 |
| 情報開示の順序 | コンセプトを明かさず、ユーザーに気づかせる | 考察・発見の余地を残す投稿は拡散されやすい |
| 拡散の起点 | Instagram発の投稿をXで話題化させる導線 | プラットフォームをまたいだ拡散設計として応用可能 |
| 継続施策 | 実用的な生活情報で定期的な接点を作る | 業種を問わず、フォロワー維持の基本として応用可能 |
| 外部評価 | 広告賞(ACC、JAAAなど)への展開 | PR観点での二次的な露出拡大として参考になる |
この整理から分かるのは、バズ企画そのものを模倣することよりも、「商品を直接見せにくい時に、何を主役に据えるか」という発想の転換が本質的に重要だという点です。
自社アカウントに応用できる5つのポイント(実践チェックリスト)
アース製薬の事例から抽出できる、明日から試せる具体的なアクションを整理します。
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自社商品の「見せにくさ」を書き出す 商品そのものを撮っても魅力が伝わらない理由を言語化する。「地味」「生活感が出る」「使用シーンが人に見られたくない」など、ネガティブに見える特性ほど企画のヒントになります。
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商品ではなく“視点”の候補を3つ挙げる ユーザー視点、競合(アース製薬なら「虫」)視点、開発者視点など、商品を取り巻く別の立場から投稿を組み立てられないか検討する。
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コンセプトを最初の投稿で説明しきらない 全てを説明すると発見の余地がなくなります。数投稿にわたって「あれ、これは何だろう」とコメント欄やX上で話題にされる余白を意図的に残す設計にする。
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メインアカウントとは別に「生活密着型」の受け皿を用意する バズで獲得したフォロワーを維持するために、商品訴求色の薄い実用情報アカウントやハイライトを用意し、継続的な接点を作る。
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InstagramとXの役割を分けて設計する Instagramで企画を発信し、X上での言及・引用を前提とした「拡散されやすい切り出し方」を事前に用意しておく。画像の一部だけでも意味が伝わる構成にしておくと、二次拡散が起きやすくなります。
よくある失敗パターンと回避のヒント
類似の企画を真似しようとして成果が出ないケースでは、いくつか共通する落とし穴があります。一つは「奇抜さ」だけを模倣し、ユーザーに発見させる余白を作らずに全て説明してしまうことです。アース製薬の企画が機能したのは、ユーザー自身が気づき、語りたくなる構造があったからであり、企業側が全てを種明かししてしまうとその効果は薄れます。
もう一つは、バズ企画だけで終わり、継続的な情報発信の受け皿を用意していないケースです。一時的な注目はフォロワー数の増加につながっても、その後の投稿が商品訴求一辺倒に戻ってしまうと、せっかく獲得した関心は急速に冷めてしまいます。「アースとちょっといい暮らし」のような、役立つ情報で関係性を維持する仕組みとセットで考えることが重要です。
自社の業種で同じような課題を抱えている場合、まず「映えにくさ」を逆手に取った他社の成功パターンを複数見比べてみることをおすすめします。unyou(https://unyou.media)の事例データベース「/cases」では、業種別にSNS運用の実例を確認できるので、同じ日用品・メーカー系アカウントや、ビジュアル訴求が難しい業種の運用事例と合わせて比較してみると、自社に合った切り口が見つかりやすくなります。
まとめ
アース製薬のInstagram運用が支持されている背景には、「商品が直接映えない」という制約を逆手に取り、商品ではなく視点や物語を主役にした企画設計があります。「もしゴキブリがInstagramをやったら」という企画は、コンセプトを明かさずユーザーに発見させる設計によってUGCを生み、Xとの連動で話題化を加速させました。一方で、「アースとちょっといい暮らし」のような生活密着型アカウントを並行して運用することで、一時的な注目を継続的な関係性へとつなげる工夫もなされています。
総務省「令和7年版 情報通信白書」が示すとおりSNS利用率は8割を超え、Metaの発表からも国内Instagramユーザー基盤の拡大が続いていることがうかがえます。こうした環境のなかで重要なのは、フォロワー数やエンゲージメント率といった数字を追う前に、「自社の商品・サービスは何を主役にすれば語りたくなるのか」を言語化することです。本記事のチェックリストを参考に、まずは自社商品の「見せにくさ」を書き出すところから始めてみてください。
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