「うちも老舗だから、SNSより対面接客や口コミで十分」「伝統ある看板を守りながら、若い世代にも届く発信をしたいけれど、何を投稿すればいいのか分からない」——飲食店や食品メーカーのSNS担当者から、こうした悩みをよく耳にします。歴史や格式があるブランドほど、「軽い発信で世界観を壊したくない」というプレッシャーは大きく、結果として投稿が止まってしまったり、当たり障りのない商品写真だけが並ぶアカウントになってしまいがちです。
一方で、室町時代後期の京都に創業し、500年近い歴史を持つ老舗和菓子店「虎屋」は、伝統を守りながらもInstagramを含むSNSを積極的に活用し、複数の公式アカウントを使い分けながら情報発信を続けています。本記事では、公開されている虎屋の情報発信の実例と、Instagram利用に関する公的データ・調査データをもとに、老舗ブランドがSNSでどのように「世界観」と「発信力」を両立させているのかを分解し、規模や業種を問わず応用できるポイントに落とし込みます。数値面については、確証のないフォロワー数やエンゲージメント率のような未公開・非公式の数字は扱わず、公表されている事実と統計のみを根拠にします。
なぜ今、老舗ブランドのSNS運用が注目されるのか
まず前提として、消費者が飲食店やブランドを知る経路そのものが、この数年で大きく変化しています。総務省が公表している「令和6年版 情報通信白書」では、SNS利用が特定の若年層だけでなく幅広い年代に広がっていることが示されており、20代・30代では非常に高い利用率になっている一方、60代以上でもSNS利用が着実に増加している傾向が報告されています(出典:総務省「令和6年版 情報通信白書」)。
つまり、老舗ブランドが想定してきた「年配のお客様は店舗や紙媒体で十分」という前提は、もはや盤石ではありません。むしろ長年のファンだけでなく、新しい世代の顧客接点としてSNSを位置づける必要が出てきています。
また、Instagram自体の国内利用規模についても触れておきます。Meta(当時のFacebook Japan)は2019年6月に、Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3,300万を突破したと公式発表しました(出典:Meta「Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3300万を突破」2019年6月)。これはやや古い数値であり、その後Metaは地域別・プラットフォーム別の利用者数を公式には開示しなくなっていますが、「国内で数千万規模のアクティブアカウントを持つプラットフォームである」という事実自体は、企業がInstagramを軽視できない根拠として今も引用されています。

虎屋というブランドが持つ「発信の土台」
虎屋は、京都で創業して以来、御所や宮内庁とのつながりを含む長い歴史を持つ和菓子店として広く知られています。この「歴史そのものがコンテンツになる」という点は、老舗ブランドがSNSで戦うときの最大の武器です。
さらに虎屋は、単一の店舗・単一のブランドイメージに閉じていない点も特徴的です。公式サイトの発表によれば、赤坂店は2018年10月のリニューアルオープンに合わせて店舗独自のInstagram公式アカウントを開設しています(出典:株式会社虎屋公式サイト「赤坂店 Instagram公式アカウント開設のお知らせ」)。また、静岡県御殿場市にあるグループ会社「とらや工房」は2007年に開設され、「和菓子屋の原点」を現代に再現するというコンセプトのもと、独自のInstagramアカウントで発信を続けています。
このように、虎屋は「本店・本社としての世界観発信」と「個別店舗・個別施設のローカルな発信」を分けて設計している点が、単一アカウントで全てを賄おうとしがちな企業アカウントとの大きな違いです。
投稿の「型」を分解する——世界観づくりの具体策
公開されている虎屋グループ各アカウントの発信内容を見ると、共通していくつかの型が見えてきます。
- 季節の生菓子や、その季節ごとにしか登場しない意匠・銘(菓子の名前)を軸にした投稿
- 店舗や施設そのものの佇まい、庭園、建築など「場」の空気感を伝える写真・動画
- 職人の手仕事や製法など、量産品にはない工程を見せるコンテンツ
- 新卒採用向けのインスタライブ「とらやのお仕事」のように、顧客だけでなく将来の担い手にも向けた発信(出典:株式会社虎屋公式サイト「新卒採用インスタライブ『とらやのお仕事』配信のお知らせ」)
- 「和菓子の日」に合わせたインスタライブ配信など、業界全体の記念日・行事に乗せた企画(出典:株式会社虎屋公式サイト「和菓子の日インスタライブ 配信のお知らせ」)
これらに共通するのは、「商品を売り込む」投稿ではなく、「和菓子という文化・季節感・手仕事の価値」を伝える投稿が中心になっている点です。フォローする理由が「セール情報が欲しいから」ではなく「日本の四季や伝統に触れていたいから」になるよう設計されているとも言えます。
アカウント設計の巧みさ——「分ける」ことで世界観を守る
多くの企業は、SNS運用を始める際に「まず1つの公式アカウントを作る」ところからスタートします。しかし虎屋のケースは、本社・店舗・グループ会社が、それぞれの立ち位置に応じてアカウントを分けて運用している点が示唆に富みます。
- 本社・ブランド全体としての世界観発信(公式アカウント)
- 個別店舗ならではのローカル情報(赤坂店など)
- コンセプトの異なる関連施設・グループ会社(とらや工房など)
- 採用・人材向けの発信(インスタライブ企画)
これは、フォロワーが「自分の知りたい情報」に応じてアカウントを選べる設計であり、同時に本体アカウントの世界観を薄めずに済むというメリットがあります。逆に言えば、多店舗展開をしている企業や、複数の顧客セグメント(一般客・法人・採用候補者など)を抱える企業にとって、「無理に1つのアカウントに情報を詰め込まない」という発想は、そのまま応用できる学びです。
エンゲージメントを生む施策——ライブ配信と行事タイアップ
虎屋の発信で目を引くのは、投稿(フィード)だけでなくインスタライブを継続的に活用している点です。前述の「和菓子の日」に合わせた配信や、新卒採用向けの「とらやのお仕事」配信は、いずれも「今しか見られない」「双方向でやり取りできる」というライブ配信ならではの特性を生かした企画です。
老舗ブランドは往々にして「静的で権威的な発信」に寄りがちですが、ライブ配信という双方向性の高いフォーマットをあえて採用することで、フォロワーとの距離を縮める工夫をしていると読み取れます。これは、格式のあるブランドほど参考にすべき姿勢です。「格式を保つ」ことと「一方通行の発信しかしない」ことは、本来イコールではありません。
データで見るInstagramと飲食店選びの関係
ここで、飲食・食品業界がSNS発信に取り組むべき理由を、公表されている調査データから確認しておきます。
データマーケティングメディア「マナミナ」が2025年8月に掲載したStorePro社の調査(18〜28歳のZ世代で、SNSを参考に飲食店を選んだ経験がある人1,012名が対象、調査期間2025年8月13日〜15日)によれば、飲食店探しに最も利用されているSNS・メディアはInstagramで52.2%となり、TikTok(15.3%)やグルメサイト(9.8%)を上回りました(出典:マナミナ「Z世代の飲食店探しはSNSで完結?Instagramの視覚訴求と保存性がZ世代に圧倒的人気!【StorePro調査】」)。
また、PR TIMESに掲載された株式会社TableCheckのプレスリリースでは、飲食店探しの手段として「Googleマップ」や「ウェブ検索」の利用が急増している一方、従来型のグルメサイトについては「信頼しない」と回答した飲食店側が6割にのぼるという調査結果が紹介されています(出典:株式会社TableCheckプレスリリース、PR TIMES掲載)。
これらのデータを踏まえると、特に食品・飲食業界においては、Instagramが「発見」から「検討」までの重要な接点になっている一方、情報の信頼性や世界観の伝わり方そのものが選ばれる理由になっている、と読み解けます。虎屋のように、季節感や手仕事、店舗の空気感を丁寧に伝える発信は、単なる「バズ」狙いではなく、この調査結果が示す消費者心理に合致した戦略だと言えるでしょう。
自社アカウントに応用するための実践チェックリスト
虎屋の事例から得られる学びを、明日から着手できる粒度に分解すると次のようになります。
- 自社の「歴史・こだわり・工程」のうち、まだ言語化・映像化していないものを3つ書き出す
- 季節や年中行事(二十四節気、記念日、業界の「〇〇の日」など)に合わせた投稿カレンダーを3か月分作る
- 「商品訴求」と「世界観訴求」の投稿比率を決め、世界観訴求を最低でも半分以上にする
- 複数店舗・複数事業を持つ場合、アカウントを分けるべきか、1つに統合すべきかを顧客セグメント単位で洗い出す
- インスタライブなど双方向フォーマットを、月1回など無理のない頻度で試験導入する
- 採用候補者向けなど、顧客以外に届けたい相手がいないか棚卸しする
- 投稿ごとに「保存」や「プロフィールへの遷移」など、購買行動につながる指標を確認できる体制を整える
虎屋の運用要素と自社への応用ポイント
| 虎屋の運用要素 | 具体的な中身 | 自社アカウントへの応用ポイント |
|---|---|---|
| 複数アカウント設計 | 本社・赤坂店・とらや工房など役割ごとに分離 | 多店舗・多事業なら顧客セグメント単位でアカウント分割を検討 |
| 季節・行事コンテンツ | 季節の生菓子、和菓子の日の配信 | 業界の記念日・季節性をカレンダー化し企画を前倒しで準備 |
| ライブ配信の活用 | 採用向け・記念日向けインスタライブ | 双方向性のあるフォーマットを定期的に試す |
| 「場」の空気感の発信 | 店舗・庭園・工房の佇まいを見せる | 商品単体でなく、空間や工程を見せる投稿を増やす |
| 顧客以外への発信 | 新卒採用向けコンテンツ | 採用・取引先など複数の読者像を想定した投稿を設計 |
まとめ
虎屋のInstagram運用から見えてくるのは、派手な数値やバズを狙う発信ではなく、「歴史」「季節感」「手仕事」というブランドの本質的な価値を、複数のアカウントと双方向フォーマットを使い分けながら丁寧に伝え続ける姿勢です。総務省の情報通信白書が示す通りSNS利用者層はもはや幅広い年代に広がっており、マナミナ掲載のStorePro調査やTableCheckの調査が示す通り、Instagramは飲食店選びにおいて無視できない接点になっています。老舗だから、伝統があるからとSNS発信を後回しにするのではなく、むしろその歴史や世界観こそがコンテンツの源泉になり得ることを、虎屋の事例は示しています。自社の「まだ言葉になっていない魅力」を棚卸しするところから、明日のアカウント運用を見直してみてください。
あわせて読みたい
ABOUT UNYOU
unyou は、SNS運用の「成功事例」が集まるデータベースです
Instagram・X・TikTok で実際に成果を出しているアカウントを、業種 × トンマナ × プラットフォームで検索・比較できます。掲載しているのは、世の中に公開されている実在アカウントの分析 600件超。 「自社の業種で何が伸びているのか」を、感覚ではなくデータで確かめられます。
無料相談
自社に合ったSNS運用、プロに相談してみませんか?
「何から始めればいいかわからない」「今の運用が正しいか不安」「外注すべきか迷っている」 ——そんなお悩みに、unyouが蓄積した実運用データをもとにお答えします。 相談は無料、しつこい営業はありません。
無料でSNS運用を相談する