「うちもインスタを頑張っているのに、なかなか反応が増えない」「大手企業のアカウントはフォロワーも多いし洗練されているけど、何が違うのか言語化できない」——SNS担当者からよく聞く悩みです。とくに住宅・不動産業界は、写真映えする物件があっても、投稿が「ただの施工事例の羅列」になりがちで、フォローする理由や見続ける理由を作れずに伸び悩むケースが少なくありません。
そこで本記事では、大手ハウスメーカーである大和ハウス工業の公式Instagram運用を、公開されている情報をもとに分析します。フォロワー数やエンゲージメント率といった確証の持てない数字を並べるのではなく、「アカウント設計」「投稿の型」「世界観の作り方」「エンゲージメントの仕掛け」という運用の構造そのものを分解し、自社アカウントに応用できる具体的なポイントに落とし込んでいきます。
大和ハウス工業のInstagram運用、まず全体像をつかむ
大和ハウス工業は、ひとつの巨大な公式アカウントにすべての情報を詰め込むのではなく、目的別に複数のInstagramアカウントを運用しているのが大きな特徴です。代表的なものだけでも以下のような構成になっています。
- 大和ハウス(@daiwahouse_official):住まいづくりや暮らしに役立つ情報全般を発信するメインアカウント
- 物語で溢れるおうち byダイワハウス(@daiwahouse_story):分譲住宅のオーナーが実際にどんな暮らしをしているかを、ストーリー形式で紹介するアカウント
- ダイワハウスの分譲マンション「プレミスト」(@daiwahouse_premist):分譲マンションブランド「プレミスト」に特化したアカウント
- 大和ハウスウッドリフォーム(@daiwahouse_woodreform):リフォーム事業に特化したアカウント
このように商品ライン・事業部ごとにアカウントを分けている点は、企業がSNSを設計するうえで非常に参考になる考え方です。1つのアカウントに「注文住宅」「分譲マンション」「リフォーム」「オーナー向け情報」を全部混ぜてしまうと、フォロワーは自分が求めている情報にたどり着きにくくなり、結果として「なんとなくフォローしているけど興味を持てないアカウント」になってしまいます。

なぜ「複数アカウント運営」が有効なのか
企業アカウントが増えると運用負荷が上がるというデメリットはありますが、それ以上に得られるメリットが大きい設計です。
第一に、ターゲットの解像度が上がること。注文住宅を検討している層と、分譲マンションを検討している層、すでに家を建てたオーナー層とでは、知りたい情報も、響く投稿のトーンもまったく異なります。アカウントを分けることで、それぞれに最適化したコンテンツを迷いなく作れます。
第二に、フォロー後の体験が濃くなること。目的が明確なアカウントほど、フォロワーは「自分ごと」として投稿を見続けてくれます。これは、企業規模にかかわらず応用できる考え方で、たとえば地域の工務店であっても「新築事例専用」「リフォーム事例専用」「スタッフの日常」のようにテーマを分けるだけで、フォロワーの熱量は変わってきます。
もちろん、中小規模の事業者がいきなり複数アカウントを持つ必要はありません。まずは1つのアカウントの中で「投稿のカテゴリ(ハイライトやハッシュタグ)」を明確に分け、将来的にアカウント分割を検討するというステップが現実的です。
投稿の型を分解する
大和ハウス工業のアカウント群を見ていくと、投稿にはいくつかの明確な「型」があることがわかります。
1. 施工事例・分譲事例の紹介
間取りや外観、内装のデザインポイントを紹介する、住宅系アカウントの王道フォーマットです。単なる写真の羅列ではなく、「どんな暮らしを実現したいオーナーが、どんな工夫をしたか」という文脈をセットで伝えているのが特徴です。
2. オーナーのライフストーリー
「物語で溢れるおうち」アカウントに象徴されるように、実際にそこで暮らす家族の物語として住まいを紹介するアプローチです。企業が一方的に「良い家です」と発信するより、実在する暮らしのエピソードを通じて伝える方が、見る側の共感や信頼を得やすくなります。
3. 季節・イベントに絡めたコラボレーション企画
ディズニーとのコラボレーションのように、季節のトピックや他ブランドとの企画を絡めた投稿も見られます。住宅というストック型・低頻度購買の商材は、放っておくと「今すぐ客」以外の関心を維持しにくいカテゴリーです。イベント性のある投稿を挟むことで、購買意欲が高くない層にもアカウントを見続けてもらうきっかけを作っています。
4. オーナー向けコミュニケーション誌との連動
すでに家を建てたオーナー向けの会報誌のような媒体をInstagram上でも紹介する動きも見られます。これは、新規顧客獲得だけでなく、既存オーナーとの関係維持・ブランドロイヤルティ向上にもSNSを活用しているということです。企業アカウントは「新規獲得のための道具」と捉えられがちですが、既存顧客との接点としての価値も見逃せません。
世界観のつくり方——「暮らしの提案」を軸にする
大和ハウス工業の投稿全体を貫いているのは、「家そのもの」ではなく「その家でどう暮らすか」を主語にしている点です。間取りのスペックや設備の性能だけを訴求するのではなく、暮らしの中の一場面、家族の物語、季節の行事といった、感情が動く要素と住まいを結びつけて発信しています。
これは住宅業界に限らず、あらゆる業種のアカウントに応用できる視点です。飲食店であれば「メニュー写真」だけでなく「その一皿を囲む時間」を、アパレルであれば「商品写真」だけでなく「着こなしのある生活シーン」を見せる。商品・サービスの機能ではなく、それを使った先にある暮らしや体験を主語にすることで、フォロワーは「自分もこうなりたい」という感情移入をしやすくなります。
エンゲージメントを生む仕掛け
投稿の型に加えて、エンゲージメントを生む仕組みづくりの観点でも学べる点があります。
- 実在するオーナーの声を可視化する:第三者の実体験は、企業発信の情報よりも信頼されやすく、コメントや保存につながりやすいコンテンツです。
- リールなど動画フォーマットの活用:静止画だけでなく、間取りや暮らしの動線を動画で見せることで、情報量と没入感を高めています。
- 季節・イベントとの掛け合わせ:住宅購入という低頻度の意思決定に対して、季節ネタやコラボ企画で「今すぐ客ではない層」との接点を継続的に作っています。
- 事業ごとのアカウント設計によるコンテンツの純度維持:ターゲットが混ざらないことで、フォロワーが「自分向けの情報だ」と感じやすい状態を保っています。
データで見る、企業がInstagram運用に力を入れるべき理由
「そもそもなぜ住宅・不動産業界でInstagramに力を入れる価値があるのか」を、公的データと業界調査から確認しておきます。
総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、インターネット利用目的のうち「SNS(無料通話機能を含む)の利用」の割合は81.9%と、あらゆる利用目的の中で最も高い割合を占めています。SNSはもはや趣味的なツールではなく、生活インフラの一部として最も使われているサービスだということが読み取れます。
また、Meta(旧Facebook Japan)は2019年6月7日、Instagramの国内月間アクティブアカウント数が3,300万を突破したと公式に発表しています(2019年3月時点)。この発表以降、公式な国別MAUが毎年公表されているわけではありませんが、この一次情報は「Instagramが日本国内で無視できない規模のユーザー基盤を持つプラットフォームである」ことを示す確定的な事実として、業界で広く引用されています。
さらに住宅業界に絞ると、ゼロシード株式会社が実施しPR TIMESで公表された調査では、注文住宅購入検討者の7割がInstagramを活用した情報収集を行っているという結果が出ています。同調査では、家づくりの参考にした情報源としてInstagramが55.9%で最多となり、YouTube(43.7%)、X(旧Twitter、38.2%)を上回っています。つまり住宅というジャンルにおいて、Instagramは「他社と比較検討するための一次情報源」として、すでに生活者の意思決定プロセスに組み込まれているのです。
| データ・調査 | 主な内容 | 出典 |
|---|---|---|
| インターネット利用目的の実態調査 | SNS利用の割合が81.9%で全利用目的中トップ | 総務省「令和6年版 情報通信白書」 |
| Instagram国内MAUの公式発表 | 国内月間アクティブアカウント数が3,300万を突破(2019年3月時点) | Meta(旧Facebook Japan)公式発表(2019年6月7日) |
| 住宅購入検討者のSNS利用実態調査 | 注文住宅検討者の7割がInstagramで情報収集、参考情報源としてInstagramが55.9%で最多 | ゼロシード株式会社 調査リリース(PR TIMES掲載) |
こうしたデータを踏まえると、住宅・不動産に限らず「比較検討期間が長く、感情的な意思決定要素が大きい商材」を扱う企業ほど、Instagramでの継続的な情報発信が意思決定プロセスに影響を与えやすいと考えられます。
大和ハウス工業の運用から学べる、応用できる5つのポイント
ここまでの分析を踏まえ、自社アカウントに応用できるポイントを整理します。
- 投稿を「商品紹介」ではなく「暮らしの物語」として設計する:スペックや価格ではなく、それを使う人の生活シーンを主語にする。
- ターゲットごとにコンテンツの文脈を分ける:アカウントを分けるのが難しければ、ハイライトやハッシュタグでカテゴリを明確に分離する。
- 第三者の実体験(顧客・オーナーの声)をコンテンツ化する:企業発信よりも信頼されやすく、保存・シェアされやすい。
- 低頻度購買の商材ほど「今すぐ客以外」との接点を作る:季節ネタやコラボ企画で、フォロー継続の理由を提供する。
- 静止画だけでなく動画フォーマットを組み合わせる:動線や空間の広がりなど、静止画で伝えにくい情報を動画で補完する。
明日から試せる実践チェックリスト
すぐに着手できるレベルまで落とし込むと、次のようなアクションになります。
- 直近10投稿を見返し、「商品説明」に寄っている投稿と「暮らしの提案」に寄っている投稿の比率を数えてみる
- 自社の顧客・利用者に「実際に使ってみてどうだったか」を聞き、投稿ネタとして許可を得る
- プロフィールのハイライトを、ターゲット別(新規/既存、商品ライン別など)に整理し直す
- 直近1年で使っていない季節イベント・コラボの切り口を3つ書き出す
- 静止画のみで構成している投稿の中から1つを選び、次回は動画(リール)で作り直してみる
- フォロワーからのコメント・DMのうち、そのままコンテンツ化できそうな質問や感想をストックする仕組みを作る
一つひとつは小さな取り組みですが、積み重ねることで「なんとなく更新しているだけのアカウント」から「見る理由のあるアカウント」へと変化させていくことができます。
まとめ
大和ハウス工業のInstagram運用は、派手な演出や奇をてらった企画ではなく、「アカウント設計の明確さ」「暮らしを主語にした投稿」「実在するオーナーの声の活用」「低頻度購買層との継続的な接点づくり」という、地に足のついた運用の積み重ねによって支持を得ていると考えられます。これらは業界や企業規模を問わず、自社アカウントの投稿方針を見直す際の具体的なヒントになるはずです。
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